「大人の名品図鑑」スウェットシャツ編#2
およそ100年前のアメリカで、それまでウールでつくられていた運動着をコットン素材に改良したものが発明された。これがスウェットシャツの起源だ。コットンの運動着は伸縮性や吸汗性に優れ、肌触りもよいので着やすい。現代では誰もが愛用する衣服なった。今回は、映画を題材にスウェットシャツの名品を紹介する。
エルマー・バーンスタインが作曲したマーチを聞けば、誰もがその映像を思い起こすほどの名画が『大脱走』(1963年)だ。
『OK牧場の決斗』(57年)、『老人と海』(58年)、『荒野の七人』(60年)などを監督したジョン・スタージェスの作品。『荒野の七人』にも出演していたスティーブ・マックイーン、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソン、『戦場にかける橋』(57年)で知られるジェームズ・ドナルド、『ガンジー』(82年)でアカデミー監督賞を獲得した英国の俳優リチャード・アッテンボローなど、豪華オールキャストで製作された戦争映画の傑作だ。
第2次世界大戦末期、ドイツにある脱走不可能と言われた空軍捕虜収容所。そこに集められた英国を中心にした連合軍兵士たちが、250人もの集団脱走を企てるという史実に基づいた話。「ビッグX」と呼ばれるリーダーが収容所に合流して計画がスタート。地下に3本のトンネルを掘り、脱走後、ドイツ国内から逃げるために身分証明書を偽造し、洋服まで自分たちでリフォームし、脱走に備える。決行当夜、トンネルを抜けて地上に出ると、そこは予定していた森の手前だった。距離を間違えたのだ。収容所のドイツ哨兵の眼をかいくぐり、命知らずの男たちは外界に出ていく──。このような手に汗握るストーリーが連続する。
主人公のひとり、スティーブ・マックイーン演じるバージル・ヒルツ大尉が、革のフライトジャケットA-2の中にいつも着ていたのがブルーのスウェットシャツだ。クルーネックでラグランスリーブの、極めてスウェットシャツらしいデザイン。両袖を肘の下あたりでやや長めにカットオフしているのが大きな特徴だ。マックイーンがこれにカーキ色のチノーズと、スエードかヌバックと思われる茶の編み上げのブーツを合わせている。余談になるが、この時のチノーズは細身のシルエットで、マックイーン好みに仕立て直したとも言われている。スウェットシャツの袖の長さにもマックイーンがこだわったのだろうか。
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なぜスウェットシャツを着たのか?
マックイーンがこの映画でスウェットシャツを着たのは理由がある。彼が演じたのは米国陸軍航空隊に所属する大尉。一方、この捕虜収容所に入っている捕虜のほとんどは英国やオーストラリアなど、英国連邦に所属する兵士たちだ。だからマックイーン以外の兵士たちの多くは、ユニフォームの中にウール素材のセーターを着ている。対するマックイーンはコットン素材と思わせるスウェットシャツを着用する。1920年代にアメリカで発明されたスウェットシャツは、その機能性から軍用のトレーニングウェアとして誕生間もないころから採用されていた。だから、この映画ではマックイーンにスウェットシャツをわざわざ着せているのだ。
マックイーンが着たスウェットシャツを忠実に再現したのが、1996年、日本で創業したトイズ マッコイだ。ヴィンテージのラグランスリーブのスウェットシャツをモチーフに、劇中、マックイーンが着たものと同じように袖のカットオフを再現している。ボディも旧式の吊り編み機で編まれたコットン100%の生地を採用、脇に縫い目がない「丸胴」タイプがヴィンテージ好きには堪らない。加えて色もやや赤みの強いブルーに。使い込んでいくうちに、マックイーンが着たような色褪せた感じになるだろう。
映画の後半、ヒルツ大尉は逃走中に奪い取った軍服を脱ぎ捨てる。そして、このブルーのスウェットシャツ一枚に着替え、迫り来るドイツ軍を翻弄するように草原をバイクで駆け巡る。まさにこの映画のクライマックスシーン。どれほど多くの観客が、彼が鉄条網を飛び越え、安全な場所へ逃げられることを願っただろうか。そんなヒルツ大尉=マックイーンの不屈の精神が込められた、完璧な仕上がりのスウェットシャツだ。
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問い合わせ先/トイズマッコイ ストアー TEL:03-5766-1703
http://www.toys-mccoy.com