「隣の駅だからと思ったけど、歩く距離ではなかったか……」
中央・総武線小岩駅近くでの商談のあと、新小岩駅まで歩いた五郎は心の中でつぶやく。調べてみたところ、小岩駅と新小岩駅は意外と遠く、歩くと35〜45分くらいはかかるらしい。「東京は一駅くらい歩ける」とよく言うが、厳密には主に都心だけの話だし、路線や駅によっても差があるよなあとよく思う。その他にも「東京」を主語にしてなにかが語られる時、「東京都」ではなく東京都心や山手線の内側だけの話だったりすることはよくある。
私は上京したばかりの頃、中央線の新宿駅から丸ノ内線の新宿御苑前駅を電車で移動した際、乗り換えや駅構内を歩く時間などを加味すると徒歩の方が早いことに衝撃を受け後悔したことがあるが、この距離感に慣れていると逆のパターンが起こるのかもしれない。
しかし五郎の体力をナメてはいけない。今回はどうやら商談はしごの五郎は、新小岩駅近くにあるトレーニングジムに向かう。オーナーの武田(佐野岳)にバーベルを挙げながら出迎えられ、「あと7回で終わりますんで」「決めたトレーニングメニューは妥協したくないんです」と筋トレの都合で待たされた挙句、商談中に「せっかくなので何かトライしてみますか」と半ば強引にウォーキングマシンに乗せられる。それは武田がトレーニング後30分以内にプロテインを飲むための時間稼ぎであることに五郎は気づく。仕事より筋肉を優先する男。少々非常識に思えるが、五郎はおとなしく20分のウォーキングを終える。
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長時間歩いた先には
夏にスーツ、しかもネクタイをきちんと締めてジャケットも羽織って35分以上外を歩いてきて、さらに20分歩かされたため、空腹になり食事をする流れは想像がつくのだが、「貴州火鍋」という文字を見て「もう一汗かこうじゃないか」と即決するのは、正直理解が追いつかない。五郎役の松重豊は現在58歳であり、五郎には年齢の設定がないようだが、少なくとも40歳は超えていると考えていいだろう。その大食いっぷりや年齢の割に油ものに強いことにはこれまでも驚かされてきたが、やはり体力が桁違いなのだろうか。
などと考えていると、五郎はそんなの序の口だと言わんばかりに、次々と「貴州火鍋」の激辛メニューに食らいついていく。発酵らっきょうと水納豆の和え物、コールラビと燻製肉炒め、コンニャクの和え物、鶏肉の糟辣椒(ヅァオラージャオ)煮込み、厚揚げの回鍋肉(貴州家庭式)、納豆火鍋。ほとんどの料理に赤唐辛子が散りばめられている。現在は臨時休業中のため残念ながら食べに行くことはできないが、見るからに辛そうだ。
案の定、なにを食べても辛いと言い、額に汗を流し、水をお代わりする五郎。それでもいつものペースどころか、最後には納豆火鍋に羊肉を追加してランナーズハイ的な状態になったのか、「辛い。でももはやそれがよい」と一気にかき込んで怒涛の追い込み。その疾走感に、なにかそういう競技を見ているような爽快な気分になる。
「ああ、よい汗かいた。大満足」
ご機嫌で店を出て、「甘いもんでも入れてから戻るか。胃袋の中、だいぶ炎上してるから、消火させないとな」とデザート探しに繰り出す五郎にエンドクレジットが重なる。6話までと比べて食べた量はやや少なめな印象だったため、これだけ辛いものだと量は減るのかと思いきや、まだ食べるらしい。辛いものにも強い五郎、無敵である。この異常な胃袋のキャパ、油や辛さに対する強さ、体力が、見ていて頼もしく、気持ちよく、面白いのだ。そしてその健康の秘訣を教えて欲しいわ、と、25歳にして既に体力の衰えに悩んでいる私は思うのだった。
絶対に終電を逃さない女
1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。Webを中心にコラム、エッセイ、取材記事などを書いている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて東京の街で感じたことを綴るエッセイ『シティガール未満』、『TOKION』Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。
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