「大人の名品図鑑」スウェットシャツ編#1
およそ100年前のアメリカで、それまでウールでつくられていた運動着をコットン素材に改良したものが発明された。これがスウェットシャツの起源だ。コットンの運動着は、伸縮性や吸汗性に優れ、肌触りもよいので着やすい。現代では誰もが愛用する衣服なった。今回は、映画を題材にスウェットシャツの名品を紹介する。
老若男女、多くの人が愛用する「スウェットシャツ」。最近の日本では縮めて「スウェット」と呼ぶことも多いが、「スウェット=sweat」の本来の意味は“汗”や“汗をかく”こと。伸縮性や吸水性に優れた内側をパイル状にした裏毛生地を指すこともある。日本ではVANが命名した「トレーナー」もよく使われるが、欧米では正式にはスウェットシャツと呼ぶ。
そもそもこのスウェットシャツはスポーツ選手が身体を冷やさないように、トレーニング時に着用するようにと考案されたものだ。トレーニング姿のスウェットシャツですぐに思い出す映画が、シルヴェスター・スタローン主演の『ロッキー』(1976年)ではないか。フィラデルフィアのスラム街に住む三流のボクサー、ロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)は、ボクサーの収入だけでは食べていけず、高利貸しの取り立ての仕事もこなしながら、日々の暮らしを送っていた。そんな彼がヘビー級世界チャンピオンであるアポロ・クリード(カール・ウェザース)から、対戦相手に指名される。試合を予定していた相手が負傷したため、クリードはロッキーのような無名のボクサーにチャンスを与えることで自分の度量を見せ、人気を獲得したいと考えたからだ。チャンピオンの優位は誰が見ても明らか、ロッキーは圧倒的に不利。しかしロッキーはリングに立つことを決意する。これが映画の前半のストーリー。
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ロッキーの境遇を象徴するスウェット
自分が三流でないことを証明するためにロッキーは過酷な特訓に励むが、彼がトレーニングでフィラデルフィアの街中を走るシーンで着用しているのがグレーの霜降り=ソルト&ペッパーのスウェットシャツだ。しかも下も同色のスウェットパンツ。トップスにはフード付きのスウェットパーカの上に両袖をカットオフした丸首のスウェットシャツを重ね着している。これも霜降り。ついでにロッキーのこの時のスタイルを解説しておくと、彼はニット素材のウォッチキャップに足元は黒のハイカットのコンバースオールスターで、いかにもアメリカ的。声援を受けながらロッキーは街中を走り回り、後に自分の銅像が建てられることになるフィラデルフィア美術館の階段を駆け上がり、両手を上げてガッツポーズをする。誰もが高揚感を覚えるシーンではないか。
ロッキーはボクサー、汗を出してウェイトコントロールをする目的でスウェットシャツを重ね着しているのだろうが、着古したようなスウェットシャツやパンツのヨレ具合がロッキーの境遇をよく表現している。聞けば、当時無名の俳優だったスタローンは75年に行われたモハメド・アリとチャック・ウェプナーの試合をテレビで観戦して、わずか3日間で脚本を書き、自分が主演することを条件に映画会社に売り込んだという。低予算ながら、興行成績は2億ドルを超え、第49回アカデミー賞では作品賞や監督賞などを獲得した。スタローンの成功は映画の主人公ロッキーと重なり、“アメリカン・ドリーム”を感じさせる名画となった。ちなみに『ロッキー』は続編が何作も製作されるが、スピンオフされた『クリード』シリーズを含めて、霜降り、あるいはグレーのスウェットシャツが幾度も登場する。戦うボクサーを象徴するアイテムとして印象的に使われていることは容易に想像できる。
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現代的なセンスを盛り込んだ「レイニング チャンプ」の名品
ロッキーが着用した本格的なスウェットシャツを彷彿とさせる名品がある。レイニング チャンプだ。2007年、カナダ・バンクーバーで創業されたブランドで、「毎日の活動に欠かせない耐久性を持ったタイムレスなアスレティックウェアを製作する」ことを謳う。今回紹介するのは同ブランドの定番である「ミッドウェイトテリー」のスウェットパーカとスウェットパンツ。軽くて柔らかなピマコットンを使用、中間の厚みの裏毛生地は1年を通して着用できる。パーカの肩のつくりに特徴があり、前身頃は「セットイン」、後ろ身頃は「ラグラン」ショルダーの仕様。これはカジュアルになり過ぎない表情と、動きやすいラグランの“いいとこ取り”から考えられたデザインで、本格的なつくりながら、現代的なセンスやアイディアも盛り込まれているところもレイニング チャンプの強みだろう。着続けていけば、ロッキーが着用したような風格さえ漂うスウェットパーカとスウェットパンツになることは確実だ。
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