焼き餃子ほどの国民的食べ物ではないけれど、食感や多彩な味で根強いファンをもつ水餃子。本場・中国式から日本独自のものまで厳選。
1. 一味玲玲 新橋本店/新橋
アツアツを頬張ると、小龍包のような肉汁が。
お馴染みのニラや白菜はもとより、レモンにトマト、そしてパクチー豆腐といった変わり種まで、バラエティ豊かな餃子が評判の一味玲玲。ママの神山玲さんによれば、「開店した頃は40種ほどあったものを、人気のある餃子だけを残していった」結果が、現在の16種類とか。種類が豊富なばかりか、調理法も、焼く、蒸す、茹でるの3パターンを用意する。各々の餃子にあった調理法が一応は記されているものの、そこは個人のお好み次第。いろいろと食べ比べ、自分にベストな組み合わせを見つける楽しみもここならではだろう。
茹でたてのアツアツを頬張れば、小籠包のごとく口中にほとばしる肉汁が素晴らしい。それも、脂肪の融点が低くジューシーな富士朝霧高原の美豚を使い、鶏のもみじ(足先)でとるスープも加えるダブル攻撃のなせる技。手づくりの、やや肉厚でモチモチの皮がその肉汁を見事に受け止める。八角など、32種類もの香辛料が隠し味。肉の旨味を感じさせつつも、野菜一つひとつの風味がしっかりと舌に伝わるのはさすがだ。大連生まれのママさんが、子どもの頃から祖母や母親と一緒につくり続けてきたいわば「玲さんち」の水餃子が味のベースとなっている。
一味玲玲 新橋本店
住所:東京都港区新橋3-19-2 2F
TEL:03-3432-9073
※店舗情報が変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
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2. 神楽坂 芝蘭/神楽坂
食べやすい小ぶりなサイズと、食欲をそそる自家製ソース
ピリッと辛いゴマダレ風味のソースをかけて食べる独特のスタイルが特徴の、四川餃子こと「紅油水餃」。「本来、中の餡は肉だけで、その形も鐘に似せてつくったもの。大きさは小粒。四川人は、これを朝ご飯にひとりで30個ぐらいは食べますね。彼らにとって、水餃子は主食ですから」とは、現地にたびたび足を運び、本場の味づくりに余念のないオーナーシェフの渡邉嘉朗さん。渡邉さんによれば、創業120年余になる成都の老舗「鐘水餃」が四川餃子の元祖だとか。ここ芝蘭では、伝統の味を守るべくできるだけ鐘水餃の味を忠実に再現しているそうだ。「うちの水餃子はタレが命」の言葉通り、ゴマダレとニンニク風味の自家製甜醬油、そして自家製ラー油の3種を駆使。なかでも玉ネギやセロリなど9種ほどの野菜を、唐辛子や花椒とともに揚げてつくる特製ラー油が味の決め手だ。甘酸辛がバランスよく水餃子に絡み、キリリとスパイシーな香気とともに食欲を刺激する。
神楽坂 芝蘭
住所:東京都新宿区神楽坂3-1 クレール神楽坂Ⅱ 2F
TEL:03-5225-3225
www.chii-ran.com/kagurazaka
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3. 味坊/神田
仔羊とトマトの餡を包んだ素朴な皮に、黒酢をつけて。
仔羊肉とトマトを包んだ餃子は日本では珍しいが、羊食の文化が根付く中国・東北地方の定番料理。中華包丁で叩いた仔羊の肩肉はほどよく食感が残り、トマトの風味と相まってさっぱりした味わいだ。ちょっと厚めの皮はもちもちの食感で、黒酢をつけると、素朴な粉の風味がぐっと引き立つ。
「東北地方は冬はマイナス30度以下になるので、肉を食べないと寒さに耐えられない。それで、体を温める効果のある羊をよく食べるんです」
人のよさそうな笑みを浮かべるオーナーの梁宝璋さんは、その東北地方の出身。32歳で来日し、2000年に神田で始めたこの店のウリは、梁さんの故郷の料理と自然派ワインだ。たとえばふたりで水餃子とワインを楽しむ場合、ほかに注文するといいのは「羊の串焼き」や「青唐辛子と胡瓜と香菜のサラダ」。水餃子は中国ではおかずとごはんを兼ねた1品ゆえ、白米とともに食べるのは中国人から見ると不思議だとか。本場の流儀で楽しみたい。
味坊
住所:東京都千代田区鍛冶町2-11-20 1F・2F
TEL:03-5296-3386
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4. 老辺餃子舘 新宿本店/新宿
薄味のスープで温めて食す、濃厚な味わいの水餃子鍋。
中国・河北省出身の辺福という老人が180年以上前に考案した「老辺餃子」は、時の皇帝に当代随一と評価された絶品餃子。その特徴は、餡のベースとなる豚挽き肉の煮込み「 餡(ベンシェン)」にある。
この秘伝のレシピを受け継ぐ中国の老辺餃子舘と提携し、現地から技術者を招いて1986年に開業したのがここ。当初は蒸し餃子からスタートしたが、20年前に水餃子、13年前に焼き餃子もメニューに加わった。
現在のいちばん人気は、5種の水餃子が2個ずつ楽しめる「水餃子鍋」。水餃子が冷めておいしさを損なわないようにと生まれた、日本独自のメニューだ。鍋には鶏と豚骨の混合スープが張られ、火をつけると数分で水餃子が浮かんでくる。 餡の旨味が利いたやわらかな餡は、タレをつけずとも濃厚な味わい。なめらかな皮にはスープの淡い旨味が染みて、これも美味い。
老辺餃子舘 新宿本店
住所:東京都新宿区西新宿1-18-1 小川ビル3F
TEL:03-3348-5810
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5. 您好/幡ヶ谷
北京の餃子と台湾の醤が、日本で出合って一皿に。
場所は住宅街の酒屋の2階。扉を開けると、店内には厨房の活気と人々の寛いだ笑顔が渾然一体となった、独特のエネルギーがあふれている。次々に訪れる餃子ファンを満面の笑みで迎えるのは、店主の野坂由郎さん。若き日に修業先の「東京大飯店」の点心部のまかないで食べた餃子のおいしさを再現し、1982年の創業以来、毎日、本格餃子をつくり続けるベテランだ。
「餡の肉は豚肩ロースです。塊肉を叩いて粘りを出すんですが、叩き過ぎてもダメだから加減が大事。つなぎには脂の中でもいちばんおいしい背脂を使っているから、肉がパサパサにならず、茹でると溶けて肉汁になります。皮は熱湯で練ると発酵が止まっちゃうから、水で練ります。ひと晩、寝かせて熟成させるとコシが出るので、注文を受けたらそれを切って伸ばして、餡を包んで茹でて出す。はい、どうぞ!」
茹で立ての水餃子は、皮がもちもち。ひと口かじると肉々しい豚肉の旨味とザクザクの野菜の歯ごたえが現れ、餡と皮の食感のバランスが絶妙だ。これにコクのあるタレをつけると、ビールのアテにうってつけ。聞けば、タレのベースの沙佐醤は、台湾のBBQソースだとか。北の餃子と南の醤の、乙な相性をとくとお楽しみあれ。
您好
住所:東京都渋谷区西原2-27-4 升本酒店2F
TEL:03-3465-0747
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この記事はPen 2016年4/15号「1冊まるごとおいしい餃子。」特集より再編集した記事です。