新型コロナに感染して療養中に見た『孤独のグルメ Season9』第5話の感想を書いてから、一週間が経った。長引いた咳がようやく落ち着き、心配していた味覚障害は発生せず、一時は完全に失っていた嗅覚も戻りつつある。
ということで、第6話の聖地巡礼をするべく豊島区南長崎へ。
今回の五郎の商談相手は、「KGIにアジャストできない社員が多くて」「スケがタイトだからバッファもたしといて、バッファ」などとビジネス用語や英語をやたらと織り交ぜてくるタイプのアプリ開発会社CEO。違和感を抱きつつ商談を終えた五郎は、その反動から「新しい言葉やシステムでごまかさない真っ当な食い物」を求め、「割烹・定食 さがら」に辿り着く。
これぞ昔ながらの定食屋と言える外観からもわかる通り、創業51年の老舗だ。普段から混んでいる人気店とのことで、昼の開店時間に合わせて向かうと無事に入店できた。
メニューを開くと膨大な品数が目に飛び込んできて圧倒されながらも、豚キムチ定食(800円)を頼む。第5話まではどちらかというと少し風変わりな料理を出しているお店が多く登場した印象だったが、「さがら」は定番メニューが多い王道系だ。特にヒレカツ&マグロ刺身定食、フライ盛合わせ&山かけ定食といった贅沢極まりないセット定食には夢が詰まっていて、見ているだけでも楽しくなってくる。
適度に柔らかい豚肉と、ピリッと辛いキムチ。何か変わったところがあるわけではないシンプルな豚キムチだが、間違いなく美味しい。米、千切りキャベツ、マカロニ、味噌汁、漬物。どれもひとつひとつの素材の良さが引き立つ真っ当な定食。安定の美味しさだ。初めて来たのに、安定して美味しいお店なのだろうと伝わる貫禄がある。
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「普段使い」にぴったりの店
この値段でこのボリュームと美味しさ。近所にあったら絶対に通う。これだけメニューが多ければ飽きなさそうだし、700円の日替わりランチ定食をはじめ手頃な定食が揃い、それでいて2000円の天ぷら盛合わせ定食など高めのメニューもあるので、ちょっと贅沢をしたい時にも使えそうだ。「普段使いという単語の挿絵はこの店で決まりだ」という五郎の評価に深く頷く。もはやこの店があるというだけで南長崎に住みたい。
店内は主に作業着やスーツを着た常連らしきお客さんで賑わっている。ドラマでも再現されていたように、次々とお客さんが入ってきては、皆サッと食べて出て行く。
「大衆のための、昔ながらの安くて美味い店。いつものみんながいて、笑顔が見える。それ以上の幸せは、ない」
五郎はそう言った。私にとってはこれが療養期間を終えて約半月ぶりとなる外食。ようやく日常に戻って来られた実感が湧いてくる。美味しい料理を美味しく食べられることのありがたみを噛みしめる。普段使いしたくなるお店だからこそ、日々の食事を楽しめる幸せがより身に沁みるのだ。
とはいえもちろんコロナ以前の日常には戻っていない。五郎はテーブルのパーテーションを拭く店員を見て、「ただでさえ大忙しなのに、このご時世、やることが増えて、本当に飲食店の皆さんの努力には頭が下がる。毎日毎日、ご苦労様です」と心の中で労う。口には出さなくとも、美味しそうに食べる姿を見せることで、感謝の気持ちはきっと伝わっていると信じたい。
絶対に終電を逃さない女
1995年生まれ、都内一人暮らし。ひょんなことから新卒でフリーライターになってしまう。Webを中心にコラム、エッセイ、取材記事などを書いている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて東京の街で感じたことを綴るエッセイ『シティガール未満』、『TOKION』Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。
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