焼き餃子ほどの国民的食べ物ではないけれど、食感や多彩な味で根強いファンをもつ水餃子。本場・中国式から日本独自のものまで厳選。
1. 随園別館/新宿
中央を厚く伸ばした皮で、豚モモ肉主体の餡を包む。
もっちりしたコシのある皮に包まれた餡は、シュウマイやミートボールを思わせる肉々しさ。こってりしているのにさっぱりしていて、そのアンビバレントな魅力が箸を止まらなくさせる。「肉が多いのにさっぱりしているのは、自家製の『山椒水』で味付けしているから。花椒の粉を水に入れて沸騰させ、一晩、寝かせてつくるんですよ」
そう教えてくれた2代目社長の張本君成さんは、創業者である父の下で厳しい修業を積んできた人だ。
「うちの水餃子は父の故郷の中国・山東の餃子です。父は文化大革命の際に台湾へ逃げたのですが、台湾情勢が不安定になったため1970年代に来日し、この店を始めました。『随園』とは清朝の美食家・詩人の名前で、別館と付けたのは画数の問題。ここが本店です」
失われた中国の文化が薫る言葉にハッとしつつ、本場の餃子の特徴を尋ねると、「日本の餃子は野菜が多いですが、中国の餃子は肉が多い」とのこと。
餡の大方を占める肉は店で挽いた豚モモ肉で、野菜はキャベツと長ネギとショウガだけを使っているとか。
「皮も伝統を守り、伸ばす際に中心を厚めに仕上げます。具を包むと生地が押されて、全体が均一になるんですよ」
古きよき中国の味を味わいたい。
随園別館
住所:東京都新宿区新宿2-7-4
TEL:03-3351-3511
www.zuienbekkan.co.jp
※店舗情報が変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
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2. 按田餃子/代々木上原
ハトムギの粉を練り込んだ皮が、さわやか&ヘルシー
ひと目でわかる特徴は、薄茶色の皮。殻ごと粉末にしたハトムギが練り込まれているのだ。そのほのかな風味は爽やかで、中の餡も個性的。豚肉ベースの餡と鶏肉ベースの餡が2種類ずつ揃い、それぞれに組み合わせる素材は季節ごとに変わる。
そもそも餃子の餡に鶏肉を使うことが珍しいが、オーナーシェフの按田優子さんいわく、かつて外国のチャイナタウンで見つけたチキン入りの餃子がヒントになったとか。
「具の組み合わせは、旅先で出合った料理からインスピレーションを受けることが多いですね。たとえば『鶏 香菜と胡瓜』はインドネシアで食べたサラダの味がベースです」
茹で立ての餃子をそのまま味わえば、シャンツァイやキュウリの青い風味と鶏の旨味に続き、ココナッツの香りがふわりと漂い、東南アジアの空気を思い出す。次に餃子のタレをつければ、唐辛子や山椒やスパイスの香味が加わり、さらにエキゾティック。
2012年の開業時のコンセプトは「女性が来やすいヘルシーな水餃子店」だが、現在、客の5割は男性。ヘルシーさはもちろん、餃子に詰まった自由でクリエイティブな感覚が、性別を超えて支持されているのだ。
按田餃子
住所:東京都渋谷区西原3-21-2
TEL:03-6407-8813
http://andagyoza.tumblr.com
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3. 餃子館/八幡山
なめらかな皮と、ジューシーな餡の名コンビ
甲州街道沿いにひと際目立つ真っ赤な看板。それと知らなければ、ここに餃子の名品が潜んでいるとはよもや思うまい。一見、町場の平凡な中華料理屋然としたこの店が、週末ともなれば行列のできる餃子の名店「餃子館」だ。
わずかにサイドメニューはあるものの、店名通り料理はほぼ餃子一色。壁に貼り出された短冊メニューには、ざっと11種類の餃子アイテムがズラリと並ぶ。そのうち焼き餃子は4種のみと、水餃子の比重が高いのは、ご主人の須藤明さん夫妻が中国・東北地方は吉林省の出身ゆえだ。子どもの頃から慣れ親しんだ故郷の味に、食べ歩きから得たヒントを加味。独自の味をつくり出している。うっすらと具が透けて見えそうなほど薄めの皮は、プルンとなめらか。ツルリとすべるように口に入るや、アツアツのジュースが口中に充満する。その餡と皮とのコントラストが実に絶妙なのだ。それも、つくり置きは一切せず、どんなに忙しくとも、注文を受けてから生地を伸ばして具を包むから。その手間があればこそだろう。紹興酒や鶏ガラスープ、そして6種類ほどのスパイスを加えた秘伝の肉餡は、なにもつけずとも美味。シソならシソ、春菊なら春菊と、それぞれの野菜の香りを十分楽しめる。
餃子館
住所:東京都世田谷区上北沢4-29-19
TEL:090-2446-0229
※店舗情報が変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
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4. 中国料理 東順永/新宿
やわらかな皮に包まれる、山東風の優しげな水餃子。
「同じ北方系の餃子でも、山東省と瀋陽(旧満州)などの東北地方では、中身がちょっと違うんですよ。東北地方は肉と野菜が主ですが、山東省になるとエビなどの海鮮が入る。青島のように海に面した地域がありますから」とは、ご主人の劉強さん。劉さん自身は瀋陽出身だが、修業先の「鹿鳴春」が山東料理の名店だったこともあり、この店では山東料理を中心に提供しているそうだ。水餃子も然り。劉さんのイチ押しは、豚肉にエビを加えた三鮮水餃子だ。やや小ぶりのそれは、肉厚ムチムチの東北系餃子に比べて、見た目にも心もちたわやか。茹で立てを頬張るやあふれ出る肉汁も優しげだ。
しかし侮れないのは皮の存在感。東北系に比べてわずかに薄く、唇へのフィット感もなめらかながら、噛み切る際に独特の心地よい引きがある。どこか讃岐うどんにも似た、歯にクィッとひっかかる小気味よさが身上だ。それも、強力粉と薄力粉に加え、タピオカ粉や片栗粉を加えてつくる独自のレシピのなせる技。水餃子は白菜入りも用意。千切りジャガイモの和え物など気の利いた小皿料理と水餃子でまずは一杯。〆に麺か炒飯を、という使い方もOK。フレンドリーなサービスは、初めてでも気さくに楽しめるはずだ。
中国料理 東順永
住所:東京都新宿区新宿5-10-10 ファーストNYビル
TEL:03-3353-3532
※店舗情報が変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
この記事はPen 2016年4/15号「1冊まるごとおいしい餃子。」特集より再編集した記事です。