東日本大震災から10年の節目となる今年、宮城県石巻市で完成したのが複合文化施設「マルホンまきあーとテラス」だ。設計はこれまでに陸前高田の復興建築も手がけた藤本壮介が担当。かつての街並みを彷彿させる家型の建物が連なる、独創的な外観が特徴だ。
いまや国際的な建築家として知られる藤本だが、そのスタートは意外なものだ。大学卒業後、進学も就職もせずひとり建築と向き合う「6年間の空白期間」を過ごし、2000年に事務所を設立。以降、コンセプチュアルな建築をつくり続け、高い評価を得てきた。
藤本の作品に共通するテーマのひとつが、“内と外”の関係性だ。ガラス張りの空間を立体的に積み重ねた邸宅「House NA」や、渦巻き状に配した本棚の壁と外の緑を溶け込ませた「武蔵野美術大学美術館・図書館」、モンペリエの集合住宅「ラルブル・ブラン」などが代表例だ。建物と風土や文化的背景との連続性、プライベートとパブリックの境界、新しいコミュニティの創造など、独自の視点で“つながり”を定義し、曖昧さをよしとするこれまでにない空間のあり方を提案してきた。
現在は海外にも事務所を構え、各国でプロジェクトが進む他、25年開催予定の大阪万博では会場デザインプロデューサーを務める。前例のない斬新な建築を今後も楽しみに待ちたい。
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藤本壮介が携わってきた代表的な建築
【内と外の境界の曖昧化】
ガラス越しに建物の内部と外部に連続性をもたせ、境界を曖昧にするのは藤本作品の特徴。棚のように積層させた空間が内部でゆるやかにつながる邸宅や、周囲の緑に木製の本棚が溶け込み、“書物の森”を散策させる図書館などはその代表例。
【集合住宅】
四方に大きくバルコニーが張り出した樹木のような外観が特徴の「ラルブル・ブラン」(フランス語で白い木の意)や、家のカタチを単純化させた13棟を傾斜に沿ってランダムに配した「せとの森住宅」などで、新しいコミュニティのあり方を提案。
【コラボレーション】
佐藤可士和と協働した「ユニクロパーク 横浜ベイサイド店」では、斜面全体に公園を設けた“新しい店のカタチ”が話題に。老舗旅館を再生した「白井屋ホテル」ではレアンドロ・エルリッヒなどの作品を空間と絡ませて一体的にデザインした。
藤本壮介 Sou Fujimoto
1971年、北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。2000年に藤本壮介建築設計事務所設立。08年に日本建築大賞受賞。「ラルブル・ブラン」でのフランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞など、国際的な設計競技で数多の最優秀賞を獲得。
※住所非公開の物件については、一般住宅につき見学不可となります。