最近、宇多田ヒカルが「ノンバイナリー」であることを告白し、大きな話題になった。彼女ははインスタグラムのライブ配信中、親友だという「特別ゲスト」の大きなクマのぬいぐるみを「これまで何度か言ったことはあるけど、彼はゲイです」と紹介した後、「私はノンバイナリーです。ハッピー・プライドマンス!」と告白し、6月のプライド月間をファンとともに祝った(以下のインスタ投稿では2分頃から言及あり)。
宇多田ヒカルの発表に対して、多くの人がLGBTQの話だとはわかっただろう。しかし具体的にどのような性のことを表すのか、説明できる人は決して多くはなかったのではないだろうか。
いまさら聞けないLGBTQをここで一度おさらいしてみよう。
>>ジェンダー表現いくつ説明できる? あらためてLGBTQとは。
近年はより広義のLGBTQA+やLGBTQIA+などと表現されることもある。その説明はここでは割愛するが、ひとりひとりの性自認や性的指向は、決められた枠には当てはまらないこともあるということだ。
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ニューヨークの日常で感じる、LGBTQ肌感。
筆者自身は、全米でもよりLGBTQに開かれた都市、ニューヨークに住んで約20年になる。周りを見渡すと、以前は男性の米軍兵士だったが離婚後に女性に性転換したトランスジェンダーの友人、精子提供で念願の父親になったゲイの知人、男性にも女性にも性的興味を抱かないと公言する女性の知人がいる。過去には、プライドマーチ(通称ゲイパレード)や、子を希望する同性愛者の会合なども取材した。
おそらく日本にいるよりLGBTQが身近にある環境に身を置いている方だと思うが、そんな筆者でも、宇多田さんの告白を聞いたときに、ピンときたかと言えば実はそうではなかった。なんとなく想像はできたが、説明しろと言われると詰まってしまう。
ニューヨークに住む周りの友人や知人に話を聞いたが、明確な答えを持つ人はおらず、やはり同じような反応だった。
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ノンバイナリーって何?
そこで英英辞書を引いてみた。ノンバイナリー(Non-Binary)をケンブリッジ英英辞書で調べると、「having a gender identity (= feeling of being a particular gender) that is not simply male or female」とある。つまり自分の性について、男性または女性という単純な分け方に当てはまらないと感じる人」ということだ。人によって、男と女の両方を認識するケースもあるし、男でも女でもないと認識するケースもある。
メリアム・ウェブスター英英辞典にも同様のことが書かれてあるが、ノンバイナリーの多くは、代名詞を「彼」や「彼女」ではなく、「They(彼ら・彼女ら)」「Their(彼らの・彼女らの)」で表されるとある。
毎年プライド月間中は、市内の至る所にそれぞれの象徴の旗がたなびく。最も多いのは、一般的なLGBTQを表すレインボーフラッグだ。6色には生命、癒し、太陽の光、自然、調和、精神とそれぞれ意味を持つ。ほかにここ数年で、トランスジェンダーの象徴であるブルーとピンクと白の旗も増えた。
ノンバイナリーの旗と言えば黄色、白、紫、黒の4色だ。この旗について、筆者は当地でも見かけた記憶がないことからも、ノンバイナリーという性自認の歴史が割と浅く、近年になって新たに認識されつつあるものだということがわかる。
国旗さながらにさまざまなLGBTQ関連の旗を解説しているノーザンコロラド大学の発表によれば、ノンバイナリーの旗はカイル・ローワ氏によって2014年にデザインされたものという。イギリスのメディア、ザ・ガーディアンによると、アメリカで初めてノンバイナリーとして法的に認められたのは16年、退役軍人のジェイムズ・シュープ(通称ジュエイミー)氏だ。今後はほかの旗のように増えていき、人々の認識も深まっていくだろう。
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そして、今度はデミセクシャル?
ニューヨークでは、アンドリュー・クオモ州知事の末娘、ミカエラさんが先月、インスタグラムライブ中に「デミセクシャル(Demisexual)」と告白した。
ミカエラさんは、アクティビストとの会話でこのように語っている。「小学生のとき自分はレズビアンなのではと心配になり、中学生になって家族や親友にバイセクシャルだと告白。高校生になって自分のことをパンセクシャル(全性愛、Pansexuality)だと認識した」。そうして最近になりデミセクシュアルについてもっと知ると、そのアイデンティティが自分にいちばんピッタリだとわかったそうだ。
デミセクシャルとは、米メディアのトゥデイによると、ゲイ、ストレート、バイセクシャル、パンセクシャルなど、どのカテゴリーにも属しうるが、特徴的なのは、感情的な結びつきによって、相手に性的な魅力で惹かれることだという。ノーザンコロラド大学の説明では、06年にフォーラムで認識され、広く普及し始めたのは08年からとある。そして「より広い無性愛コミュニティの一部」であり、誰かに性的魅力を感じるのは「相手との深い絆を形成した後のみ」。
性自認や性的指向など性を説明する用語は、一般のアメリカ人でも追うのに必死なほど、近年たくさん誕生して少しずつ認知されている。また、それまで自分の性についてどこかしっくりこないと感じていた人も、「もしかして私ってノンバイナリーかも?」「なんだ私はデミセクシャルだったんだ」と、新たな気づきをもたらしているのかもしれない。
安部かすみ KASUMI ABE
在ニューヨークジャーナリスト、編集者。日本の出版社で音楽誌面編集者、ガイドブック編集長を経て、2007年よりニューヨークの出版社に勤務し、14年に独立。雑誌やニュースサイトで、ライフスタイルや働き方、グルメ、文化、テック&スタートアップ、社会問題などの最新情報を発信。著書に『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK』(イカロス出版)がある。
※この記事はmadamefigaro.jpからの転載です。