見知らぬ土地に行くことだけが、旅ではないと思います。

通学路の反対側の道を歩いたり、新しく手に入れたゲームに夢中になったり、気になったBARにひとりで入ってみたり。旅とは日常の中にありふれていて、いつもの生活とはちょっと違う、予想不可能性と高揚感が纏わりつくほんのささやかな瞬間もまた、旅なのだとふと感じ入ります。

それは、新譜のアルバムを封切る時の期待に包まれた胸の高まりと、音楽に導かれ異世界に連れて行かれるような浮遊感ともよく似ていて。

私たちが営む宿、HOTEL SHE, OSAKAでは、ホテルの新たな可能性を切り拓くべく、8月から新しいプロジェクトが始まりました。その名も『HOTEL cure』。シンガーソングライター・SIRUPとコラボレーションし、その新作アルバム『cure』の世界観を閉じ込めたホテルを作っています。

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ホテルは、ただの寝床ではないと思います。それは、人の五感を預かり、衣食住を統べる箱庭で、ライフスタイルを試着するメディアなのだと。日常が延々と連なって行く自宅を離れ、虚構の世界に没入する、その身体性を伴った体験を生み出せるのはホテルしかないと常々思っています。

突然の感染症の世界的流行で、世の中の娯楽は絶たれ、多くの人が孤独で変わりばえのしない生活を余儀なくされました。それは音楽を生み出す人々、音楽を愛する人々もまた例外ではなく、音楽を通じた繋がりが希薄化した一年でもありました。

社会はまだ今の状況を克服できていないし、私たちはまだ不特定多数の人と過ごすこともできないけれど、ホテルの客室という小さな箱庭の中で、愛する音楽の世界に旅立つことはできると思うのです。

『HOTEL cure』は人々の心を癒し、愛を取り戻して行く、そんな音楽の世界にあなたを誘う、幽玄のサマーバケーションです。