半月状の食べ物に魅入られた、DJ╱音楽プロデューサー・田中知之 （FPM）に、とっておきの一軒を聞いた。餃子好きは多けれど、ここまで熱く語ることができるのは、餃子への愛にほかならない。

餃子の店 蘭州

旨味成分たっぷりの、つくりたて水餃子。

僕は京都の生まれで「餃子の王将」で育ったので、餃子は“ソウルフード”みたいなもの。でも蘭州さんに行って完璧に意識改革されました。最初に行った時は立石でハシゴ酒をしていて、お腹いっぱいで酔っぱらってもいたのに、「すごく美味い」という記憶が刻まれた。そこでもう1度、そのおいしさを確かめにお酒を控えめにしてうかがったところ、「こりゃ美味い」って本当に思った。“蘭州の餃子と蘭州以外の餃子”というカテゴライズをしたいぐらい、特別なものになりました。

おいしい餃子をつくり続けているだけといったシンプルな店で、値段も安い。特に水餃子は、オーダーしてから店主の奥さんが1個ずつ皮を伸ばして餡を包んで手づくりしたものを茹でて出してくれるんですけど、それが旨味成分の塊。餡にしっかりした味がついているので、ラー油やら醤油やらをつけなくてもおいしいけど、ここのラー油がまた旨い。パクチーが100円でトッピングできるけど、こんなに繊細でおいしく香り高いものに、パクチーのような強い風味を加えるのは邪道だと僕は思います。自分がもし飲食店をやるなら蘭州に修業に行かせていただき、水餃子の専門店をやりたいって半分くらい本気で思ってます（笑）。

田中知之 （FPM）●DJ、プロデューサーとして国内外で活躍。デビュー20周年を記念したリミックス&プロデュースワークス集『Motions』など。アース・ウインド & ファイアー、ファットボーイ・スリム、ユニコーン、くるりなど37曲3枚組。

※この記事はPen 2016年4/15号「1冊まるごとおいしい餃子。」特集より再編集した記事です。