孤高の天才プリンスが遺した、 緩急自在の“完全新作アルバム”

  • 文:山澤健治
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1958年、米ミネソタ州ミネアポリス生まれ。78年、たったひとりで録音したデビュー作を発表。以降、12枚のプラチナ・アルバムと30曲のトップ40シングルを生み出した。2016年の死没後も未発表音源が発掘され続けている。

死してなお、未発表の新曲が待たれる稀有な存在、プリンス。この孤高の天才が遺したアーカイブ音源の数は膨大で、これまで彼の作品として世に発表されたのは、録音した音源全体のまだ30%程度にすぎないとも言われている。

死後5年の間、未発表曲は既発アルバムのデラックス・エディションに収録され、未発表トラック集としてアルバム化されてきたが、今回世界同時発売される『ウェルカム・2・アメリカ』は別次元の作品だ。なぜなら、2010年春に正規盤としての発表を念頭に録音したもののお蔵入りにした完全新作アルバムなのである。ファンならずとも色めき立つのは当然だろう。

録音時期はバラク・オバマ元大統領の大統領就任から1年が過ぎた頃で、プリンス自身、黒人の社会的地位向上を強く意識していた時期と重なる。また「世の中は偽情報にあふれかえっている。ジョージ・オーウェルが警告していた未来そのものだ。僕たちはこのようなチャレンジングな時代を信念曲げずに生きなければならない」とも語っており、結果、人種やジェンダーなどあらゆる差別や偏見、マスメディアによる情報操作、政治的分断、社会正義など、現代もなお有効なテーマ性をもつ、メッセージ色の強い作品となっている。

とはいえ、重苦しさが支配する作品かというと、そうではない。アメリカ社会への痛烈な皮肉と批判を込めた、Pファンク・マナーの不穏な表題曲で幕を開けるが、その後に繰り広げられるのは、ロックやファンク、R&B、ニュー・ウェイヴ・ポップを横断する、期待通りのプリンス・ワールドである。カーティス・メイフィールドを意識して書いたと言われるシルキー・ソウルの逸品「Born 2 Die」のようなヒットポテンシャルの高い曲から、スライ調ファンク・ロック、ゴスペル風味のバラードまで、緩急自在の魅惑の12曲が楽しめるのだ。

既発曲の焼き直しやアウトテイク的な、未発表作にありがちな曲も今作には皆無。まさに完全新作の看板に偽りなしの秀作である。

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『ウェルカム・2・アメリカ』プリンス SICP-31431 ソニー・ミュージックレーベルズ ¥2,750(税込) 7/30発売

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