ある土曜日の早朝、「ガサゴソ」「ガシャン!」と妙な音で目を覚ましたタイのチャレームキアットパッターナ村在住のラチャダワン・プエンプラソッポンさん。一体何事?と思い、家の中を探したところ、何とキッチンにいたのは……本物のゾウ!
Elephant breaks into kitchen in Thailand looking for snacks – video https://t.co/fwstnWLqKT
— The Guardian (@guardian) June 21, 2021
ガーディアン紙によると、プエンプラソッポンさんの家の外壁を突き破ってキッチンに頭を出しているのは、「ブーンチュアイ」と名付けられた雄のゾウ。普段はケーンクラチャン国立公園内に生息しているブーンチュアイだが、こっそり保護区を脱走した。村にやってきてエンプラソッポンさん宅のキッチンを壊して侵入。上手に鼻を使ってキッチンの引き出しをあさり、フライパンや調理器具を床にたたきつけながら食べ物を探していた。プエンプラソッポンさんはすぐにスマホでこの様子を撮影。その様子が世界中のメディアで配信され、大きな話題となった。
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「ゾウの脱走」に同情的なタイの人々
しかしブーンチュアイと仲間たちの「脱走」は珍しいことではないという。ケーンクラチャン国立公園の管理者であるイティポン・タイモンコールさんは「象たちは、食べ物の匂いにつられ、よく地元の市場に行ってしまうんです」とコメント。またタイ地元メディアによると、ブーンチュアイがプエンプラソッポンさん宅を「訪問」したのは、今回が初めてはなく、これまでに金額にして約5万タイバーツ(約16万5000円)にものぼる損害を与えているとのこと。
タイ西部カンチャナブリにあるサラクプラ野生生物保護区でゾウの生息状況を研究しているニューヨーク市立大学ハンターカレッジ心理学部・准教授のジョシュア・プロトニック博士は、国立公園のゾウが近隣の農地に食料を求めて出かけてしまうことはよくあることだと指摘。「私が研究しているタイの村では、毎晩のように農家の畑にゾウが入ってきます」と語っている。
国立公園の職員やボランティアが協力し、何とかゾウの脱走を防ぐ努力をしているものの、脱走は続いている。しかし農民たちは、農地を荒らされているにもかかわらず、「脱走しなくてはならない」状況下にあるゾウに対し、同情的だという。「(村人たちは)こうした状況にストレスを感じており、何とか対策を講じたいと考えています。しかしゾウを責めてはいないのです」とプロトニック博士は解説している。
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こうした脱走が起こる理由は?
実は中国でも最近、同じような問題が起こっている。去る6月2日、15匹の象が何カ月もかけて500km移動し、雲南省昆明市近郊まで到達した事件が世界中で大きく報道されたばかりだ。
Herd of wild elephants approaches Chinese city after 500km journey https://t.co/wwanEf6gtw pic.twitter.com/nLE3kD6kD5
— Reuters (@Reuters) June 2, 2021
BBCオンライン版ではこのゾウの大移動について、「(昆明日報によると)昆明市と玉渓市は、約700人の警察官と救急隊員を配備し、10トンのトウモロコシやパイナップルなどの食料を用意。トラックやドローンを使って、動物たちを安全な道に誘導したのこと」と伝えている。地域に大きな混乱をもたらしたことが伺える。
中国の野生生物局は、ゾウが自然の生息地を離れた理由を「理解するのは困難」としているが、プロトニック博士はガーディアン紙に「このような事例はアジア各地で増加しています。ゾウの生息地で食料資源が減少し、人間による妨害が増加していることが原因であると考えられます」と解説している。
「ゾウが自然の生息地で食料や水などの食料供給を十分に確保できないと(あるいはどこか他の場所で食料を確保できなければ)、ゾウは供給源を求めて村や農地にやってくるのです」
野生もしくは保護地区で生息する動物たちが安心して暮らせなければ、「朝起きたらキッチンにゾウ!」のようなびっくり事件が今後も起こり続けることに……。環境面と野生生物保護、両方の観点から早期解決が必要だ。
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