イギリス王位承継順位第一位のチャールズ皇太子は、「世界のベストドレッサー」に選ばれたこともあるオシャレの達人でもある。そのため腕時計にも若い頃からこだわりがあったようだ。近年、愛用するのはもっぱらパルミジャーニ・フルリエの「トリック クロノグラフ」。2018年に行われたヘンリー王子の結婚式でもこのモデルを着けていた。
パルミジャーニ・フルリエは、修復不可能とされた過去の傑作時計を蘇らせたことで「神の手」を持つと称えられる天才時計師・ミシェル・パルミジャーニが1996年に立ち上げたブランドだ。それから2年後のSIHH(通称ジュネーブサロン、現・ウォッチズ&ワンダーズ)で発表されたイエローゴールド製の「トリック クロノグラフ」を、チャールズ皇太子が自ら選んでロンドンの時計店で購入したと伝えられている。
「トリック」は奇術の意味ではなく、古代ギリシャ建築の重ねた円環(toric)状の柱礎を意味する。これをゴドロン装飾(手彫りした縦目の細かい刻み)を施したベゼルに見立てており、当時は二重にしてダイヤルを囲んでいた。これがクラシカルな趣となり、ロイヤルファミリーにふさわしい気品や重厚さを感じさせたのではないだろうか。
チャールズ皇太子はこれまでもさまざまなな名作ウォッチをコレクションしており、ロイヤルファミリーきっての時計愛好家といえる。1970年代前半にイギリス空軍の飛行士を務めていた頃はハミルトンのパイロット・クロノグラフを使用。80年代にはカルティエ「サントス」のコンビモデルやジャガー・ルクルトの「レベルソ」などを使い分け、ダイアナ妃にはパテックフィリップを贈り、自身も同ブランドの「カラトラバ」を身に着けてペアウォッチを楽しんだこともある。60歳の誕生日を迎えた2008年には、ブレゲからパワーリザーブインジケーターを備えたレギュレーターをプレゼントされている。
このように多彩な腕時計を所有しているチャールズ皇太子だが、前述したように、近年になってしばしば見かけるのは20年ほど前に購入したパルミジャーニ・フルリエだ。公務でも袖口から覗くのはこのモデルということが少なくない。決して平穏とは言えない人生を歩み、70歳を超えたいまだからこそ、オーソドックスなイエローゴールドケースに古典的な装飾が施された機械式クロノグラフが気分的に落ち着くのかもしれない。
ちなみに、チャールズ皇太子に由来するモデルも発表されている。貧困層の若者を支援する慈善団体「ザ・プリンス・トラスト」を1976年に設立しており、教育や職業訓練の機会を提供。その資金調達の一環としてショパール(2004年)とウブロ(2017年)から同国限定モデルを発売した。イギリスでも人気の高いブランドとコラボすることによって、その活動を時計愛好家や次の世代へ広げるのが目的だったという。
問い合わせ先/パルミジャーニ・フルリエ TEL: 03-5413-5745