日本美術の見方が変わる!? かつてない切り口のユニークな『ざわつく日本美術』展

  • 文・写真:はろるど
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「心ざわつく」作品としてプロローグに展示された『尾上菊五郎』。明治8年(1875)頃に発売された役者絵シリーズのひとつだが、浮世絵を見慣れていた当時の人々にとってはあまりにもリアルだったために受け入れられなかったという。

まるで週刊誌の吊り広告のようなチラシが話題を呼んだ『ざわつく日本美術』、通称『#ざわ美』。
「今までにないコレクション展」として「見るを愉しむ展覧会だ」と銘打つが、あまりにも鮮烈なビジュアルを前に、「一体、どのような展覧会なのだろう?」と首を傾げた人も少なくないかもしれない。

サントリー美術館にて開催中の『ざわつく日本美術』では、作品を見た時の「えっ?」、「うわぁ…」といった「心のざわめき」をきっかけに、同館の日本美術のコレクションを愉しもうとする異色の企画だ。展示テーマも作品の裏側に着目した「うらうらする」や、かつて切断された可能性のある作品を紹介する「ちょきちょきする」など極めてユニーク。今までに見たことのない切り口による日本美術展となっている。

「ばらばらする」と「はこはこする」に注目したい。「ばらばらする」では硯箱や蓋の付いた漆工などの身と蓋を、文字通りばらばらに分けて展示している。本来セットである身と蓋を離して見ることで、改めて作品の意匠に工夫が凝らされていることが分かる。そして「はこはこする」では「はこ」、つまり作品を収納する箱を展示していて、かつての所蔵者がどのように箱を新調し、箱書をしたのかについて知ることができる。時には作品本体よりも装飾が施されていたり、恭しいまでの箱書が記されるなど、箱そのものも鑑賞の対象として興味深く思えるのだ。また別々に展示された作品と箱をつなぐ青や緑の線を床へ引き、それをたどることで初めて両者の関係が明らかになる展示もクイズ感覚のようで楽しい。

作品は全部で93点(展示替えあり)。国宝の『浮線綾螺鈿蒔絵手箱』や重要文化財の『泰西王侯騎馬図屏風』といった名品とともに、半裸の男たちが屁を放って威力を競い合うという『放屁合戦絵巻』などの珍品も公開されている。作品を見て沸き起こる心のざわめきは人それぞれだが、普段、あまり意識しない作品の細部や裏側、また身と蓋、それに入れ物などにスポットを当てたことで、「このような見方があったのか」と鑑賞に新たな「気づき」をもたらすような内容とも言える。ユーモアがありながら、発見に満ちた新感覚の日本美術展をこの夏、サントリー美術館にて体験したい。

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『ざわつく日本美術』のカラー版チラシ。この他にも「じろ×うら版」や「ちょき×はこ版」など裏面情報が異なる4枚のチラシが展開していて、公式サイトからPDFで閲覧できる。

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『舞踊図』(江戸時代 17世紀)扇を片手に舞う着物の姿の女性たち。現在はひとりずつ額装されているものの、本来は六曲屏風であったと推定されている。よって会場では屏風のようにジグザグの画面で展示し、より動きが感じられるようにした。

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『水色地霞牡丹枝垂桜流水 菊菖蒲模様烈地』(琉球王国〜明治時代 19世紀) 琉球の「紅型」にて染めた布を表装した掛軸。実に華麗だが、下半分に継接ぎの跡が見られることから、傷んだ衣装を切り貼りして掛軸へ変えたとも考えられている。元の姿を想像できるように展示。

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『朱漆塗ガラス絵蓋付椀』(江戸〜明治時代 19世紀)や『切子 蓋付鉢』(江戸時代 19世紀)などが並ぶ第4章『ばらばらする』展示風景。身と蓋を半透明の衝立を置いた展示ケースの中に分けて展示している。まず蓋を見て、それから奥の身の姿を想像するのも楽しい。

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作品と箱を分けて展示した第5章『はこはこする』。手前に見えるのは国宝の『浮線綾螺鈿蒔絵手箱』を収めていた桐箱だ。江戸時代の文政2年(1819)に新調された箱の蓋裏に「北条政子の愛玩した7つの手箱のひとつ」と記され、「今日まで火災や欠損を逃れたのは政子の霊力のおかげ」だと書かれている。作品への畏敬の念が感じられる箱書だ。

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『サントリー美術館 開館60周年記念展 ざわつく日本美術』

開催期間:2021年7月14日(水)~8月29日(日) ※会期中展示替えあり
開催場所:サントリー美術館
東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
TEL:03-3479-8600 
開館時間:10時~18時  ※入館は閉館の30分前まで。金・土、及び8月8日(月・祝)は20時まで。
休館日:火曜日 ※8月24日は18時まで開館
入場料:一般¥1,500円(税込)
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.suntory.co.jp/sma