餃子の激戦地である東京において50年以上も営業し、かつ人気を呼んでいる老舗。そんな誇り高き名店がこだわり続ける”究極の味”を紹介しよう。
1. おけ以/飯田橋
縁によって守られた、完璧なバランスの焼き餃子。
久しぶりに訪れた「おけ以」は、なに一つ変わることなくそこにあった。「餃子の店」と大きく書かれた藍色ののれん。個性的な濃緑のテーブル。店名を刻んだレトロなデザインの中華皿。
小さな羽根をもつ餃子はカリリと香ばしい。皮は手づくり。薄いのにもちもち弾力があり、その中にはふわっと軽い餡が詰まっている。焼き餃子のお手本というべき、完璧なバランスだ。
開店は1954年。中国から引き揚げてきた創業者が鍋貼グオティエをもとに考案したという。当初は神保町にあったが、立ち退きで飯田橋に移転。そこから数えても、すでに30年近くが過ぎている。
現在、店の経営にあたるのは馬道仁さん。本業は「美能矢工務店」の代表取締役だ。いまの店舗や神保町にあった店は美能矢工務店の設計・施工。父親の代から縁のある店がのれんをおろすかもしれないという話を耳にし、9年前にそっくり引き継いだという。
「長年、この店を愛してくれているお客さんは多いですし、私自身、10歳からおけ以の餃子を食べてきた。なくなるのは寂しいですから」
餃子のレシピは二代目から直々に継承。餡や皮のつくり方は変えていない。
餡の材料は豚バラ肉の挽き肉、白菜、ニラ。ニンニクは入れず、代わりにショウガの絞り汁を少々忍ばせる。そのまま食べてもいいぐらい味付けはしっかり。1日半寝かせてまろやかにする。
一方、皮は強力粉を熱湯で練って、1枚分の大きさに切ってから3時間ほど寝かせておく。それを伸ばして餡を包んだら、いったん、冷凍して肉と野菜の旨味を引き出すのだとか。
鉄板は昔ながらの分厚い円形。湯を沸騰させた中に餃子を並べ入れるのがおけ以流だ。焼きムラができないよう何度も鍋を回転させて、手をかけながらていねいに焼いていく。その合間には翌日分の餃子1000個を包む。驚くべき生産性だ。
焼き手は馬道さんただひとり。「自分が休めば店も休業になるから、風邪もひけない」と苦笑する。
紆余曲折を経ての62年目。この店で、この餃子を再び口にできたことが奇跡にすら思えてくる。
おけ以
住所:東京都千代田区富士見2-12-16
TEL:03-3261-3930
営業時間:11時30分〜13時50分L.O.、17時〜20時40分L.O.
定休日:日、祝、第3月曜
※営業日時・内容などが変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
---fadeinPager---
2. 餃子荘ムロ/高田馬場
皮と餡がひとつになり、五香粉がふわっと香る。
開店から61年を数えるこの店の餃子は、五香粉がふわっと香るまろやかな口当たり。手づくりの皮が餡とひとつになって、しゅわ〜と溶けていく。
その繊細な味わいを活かしつつ、インパクトをつけたのが、ニンニク、チーズ、カレー、紅という4つのフレーバーだ。ニンニクとチーズは小さな角切りがそのままコロンと入り、カレーはパウダーを餡の中に忍ばせる。紅は油で練った唐辛子粉入り。もっと辛くとオーダーを受けたら、青唐辛子を入れることもできるというから、その衝撃度はいかばかりか。
「開店当時はニンニクとチーズだけで、バリエーションを増やしたのは私。注文によって中身を変えるから、その都度、包まないとならないんです」
こう話す岩室捷士さんは、創業者の次男。現在は長女の純子さんとともに、親族4人体制で切り盛りしている。
開店当時の店は、高田馬場駅前の繁華街にあったそうだ。
「その頃は、餃子以外にもハンバーグやボルシチのようなロシア料理も出していたようです。父は海軍の軍楽隊にいて、戦後、米軍相手にバンドを手配する仕事をしていた。音楽が本業だったので、私も生まれた時からずっとジャズが流れる中で育ったんです」
いまも営業中に店内を満たすのはジャズのリズム。それもまた、変わらないこの店の“味”だ。
餃子荘ムロ
住所:東京都新宿区高田馬場1-33-2
TEL:03-3209-1856
営業時間:17時〜21時30分L.O.
定休日:日
gyouzasou-muro.com/
※営業日時・内容などが変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
---fadeinPager---
3. 亀戸餃子 本店
創業以来、61年間焼き餃子ひと筋を貫く亀戸名物。
ガラガラ〜と引き戸を開けると、いきなり現れる餃子の焼き台。もうもうと立ち上がる湯気の中から、次々と焼き立てを載せた皿が繰り出される。
客席は奥に向かって二列に延び、かたわらには4卓の小上がり席。7年前に改装したが、配置はすべて以前のまま。昭和の空気を感じるのはそのためだ。
メニューもしかりで、1955年の開店以来、焼き餃子ひと筋。水餃子やシュウマイの類はない。もっと言うなら、ビールや老酒はあれど白飯はない。
「店を始めたうちの親父は頑固でね。餃子はライスと同じだ。ライスにライスはいらねぇだろって」
とは二代目の店主、石井清さんの弁。
注文はひとり2皿からと決まっていて、食べたい皿数を伝えるだけ。石井さんによれば、いままでの最高記録は女性客が打ち立てた30皿。そんなに食べられるのかと思うかもしれないが、ここの餃子はあっさり軽い。野菜たっぷりの餡が薄い皮に包まれて、するすると胃に収まってしまう。ニンニクの利かせ方もほどよいから、もたれることもなし。気がつけば皿のタワーができていた、なんてことも十分あり得る。
食事として、おやつ代わりに、仲間とわいわい飲みながら、飲み会前の0次会に。そんなお客で、いつも店内は満員御礼。のれんを上げると売り切れるまで客足は絶えない、餃子を愛する人のホームタウンだ。
亀戸餃子 本店
住所:東京都江東区亀戸5-3-4
TEL:03-3681-8854
営業時間:11時~18時30分(売り切れ次第終了)
定休日:無休
※営業日時・内容などが変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
---fadeinPager---
4. 大陸/新宿
歯切れのよい優しい後味に、箸が止まりません。
円くサークル形に並ぶ餃子といえば、浜松餃子か福島の円盤餃子か。だが、東京にもあったのだ。63年も前から、ここ新宿の「大陸」に。
「円く並べるのは、創業者の祖父から伝えられた焼き方。中国に住んでいた頃に餃子を習って、新宿駅の南口近辺に最初の店を開いたそうです」
三代目の佐々木新八さんはそう話す。餃子の味も当時と同じ。豚挽き肉とキャベツを主体に、香り付けに鶏挽き肉を少々。1日寝かせたら、自家製の薄い皮で包む。ひと口で食べられるようにと、やや小さめの親指サイズだ。
「中国では餃子は縁起もの。祖父は噛み切るのを嫌がったと聞いています」
焼き方も祖父から伝承。厚手のフライパンで軽く焼いたら、餃子が頭まで浸かるほどの湯を加える。蒸し焼きというより茹でるのに近い。頃合いをみて、フライパンごとザーッと流して湯切りをした後、多めの油を加えてこんがり焼けば出来上がりだ。
サクッと歯切れのいい餃子は、ほっと安らぐ懐かしい味わい。後味も優しく、1個また1個と箸が止まらない。
メニューを見れば、水餃子や蒸し餃子など充実のラインアップ。なかでも近頃、支持者を増やしているのが、特選焼き餃子だ。餡に加えた干しエビの風味が鮮烈に広がり、皮も厚めでもっちり艶めかしい。昔ながらの味と食べ比べできるのがうれしい。
大陸
東京都新宿区歌舞伎町1-6-3 石塚ビル4F
TEL:03-3209-4601
営業時間:16時~22時15分L.O.
定休日:無休
www.gyoza-tairiku.co.jp
※営業日時・内容などが変更となる場合があります。事前に確認をお薦めします。
この記事はPen 2016年4/15号「1冊まるごとおいしい餃子。」特集より再編集した記事です。