【小山薫堂の湯道百選】第五九回 “湯は、旅人と住人を結ぶ。”

  • 写真:杉本圭
  • 文:小山薫堂
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「豊かさの再解釈」……。アマンの創業者であるエイドリアン・ゼッカ氏はそう定義して、広島県尾道市の生口島に自身初となる旅館「Azumi Setoda」をつくった。明治期の屋敷に手を加えたのは、六角屋の三浦史朗氏。家庭的なもてなしの拡張を目指すこの宿には、新しいラグジュアリーのお手本が詰まっている。しかし特筆すべきは、隣に「yubune」と名付けた銭湯を併設した点にある。これまでラグジュアリーとは、それに見合わない価値を遮断してきた。宿で言うなら、一歩足を踏み入れた瞬間から外には出たくないと思わせる施設……。

ここは違う。銭湯という街に開かれた場を設けたことで、旅館の宿泊客は地元の人々と繋がることができる。しかも裸の付き合いだから、その絆は深い。銭湯の開業を誰より喜んだのは、この街に暮らす人々だった。誰か特別な人だけではなく、立場の違う人々の幸せを同時に創造する力こそ、ラグジュアリーの真骨頂なのだ。

さて肝心の銭湯は、お見事のひと言に尽きる。芸術家の作品をちりばめた内装、職人の技を惜しげもなく投じた調度品。外気浴を楽しむため、サウナは屋外に配置。浴槽は4つ。ぬるめ、熱めの浴槽に水風呂、そして変わり湯。この日は、島名産の新鮮なレモンが籠に山盛り用意されていた。

レモンの湯で身体を温め、散歩に出る。海風に惹かれて小さな港へ。穏やかな瀬戸内の海に沈む夕日を見ていると、町の人に声をかけられた。湯上がりの幸せは、レモンの香りがした。

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yubuneの2階は宿泊施設も兼ね備えており、畳敷のリビングを備えた客室は、サイクリストや家族連れが快適に過ごせるよう工夫されている。

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広島空港からクルマで1時間、しまなみ海道の途中に位置する人口約9000人の生口島(いくちじま)。AzumiSetodaの宿泊者はもちろん、地元の人も利用する銭湯。

〈広島県尾道市〉
yubune

●広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
TEL:0845-23-7911
営業時間:10時~20時
料金:一般¥900(日帰り入浴)、¥22,000~(1泊1室、銭湯入浴料・朝食込、サービス料別)

https://azumi.co/yubune/

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