「豊かさの再解釈」……。アマンの創業者であるエイドリアン・ゼッカ氏はそう定義して、広島県尾道市の生口島に自身初となる旅館「Azumi Setoda」をつくった。明治期の屋敷に手を加えたのは、六角屋の三浦史朗氏。家庭的なもてなしの拡張を目指すこの宿には、新しいラグジュアリーのお手本が詰まっている。しかし特筆すべきは、隣に「yubune」と名付けた銭湯を併設した点にある。これまでラグジュアリーとは、それに見合わない価値を遮断してきた。宿で言うなら、一歩足を踏み入れた瞬間から外には出たくないと思わせる施設……。
ここは違う。銭湯という街に開かれた場を設けたことで、旅館の宿泊客は地元の人々と繋がることができる。しかも裸の付き合いだから、その絆は深い。銭湯の開業を誰より喜んだのは、この街に暮らす人々だった。誰か特別な人だけではなく、立場の違う人々の幸せを同時に創造する力こそ、ラグジュアリーの真骨頂なのだ。
さて肝心の銭湯は、お見事のひと言に尽きる。芸術家の作品をちりばめた内装、職人の技を惜しげもなく投じた調度品。外気浴を楽しむため、サウナは屋外に配置。浴槽は4つ。ぬるめ、熱めの浴槽に水風呂、そして変わり湯。この日は、島名産の新鮮なレモンが籠に山盛り用意されていた。
レモンの湯で身体を温め、散歩に出る。海風に惹かれて小さな港へ。穏やかな瀬戸内の海に沈む夕日を見ていると、町の人に声をかけられた。湯上がりの幸せは、レモンの香りがした。
〈広島県尾道市〉
yubune
●広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
TEL:0845-23-7911
営業時間:10時~20時
料金:一般¥900(日帰り入浴)、¥22,000~(1泊1室、銭湯入浴料・朝食込、サービス料別)
【関連記事】