オリンピックで注目の千駄ヶ谷で、江戸時代のミニ富士山に登ってきた

  • 文:高橋一史
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はじまった以上はですよ、全力で“サポート”するのが都民の役割ですね、このオリンピック・パラリンピック。
“応援” といった心のあり方はさておき、無事に終了することを願って。
とはいえ、国立競技場がある街の千駄ヶ谷周辺にあるファッションの店の中には、交通規制や混在緩和のため休業するところもあるほどの影響が。
各開会・閉会式の日を除けば大半の店は大きな対応に迫られていないようですが。

原宿や表参道にほど近いその千駄ヶ谷に、馴染みのアパレルメーカーがあります。
撮影する服を借りにいったり、展示会で訪問したり。
社のすぐ目の前にあるのが、緑に囲まれた「鳩森八幡神社」。
宗教には縁遠い人間なものの(儀式的なことが軒並み苦手で)、アポ時間に余裕がある日に敷地に入ってみました。
すると、「富士塚」を発見!

富士塚、知ってますか?
富士山に登る信仰(山岳信仰)を身近に叶えるため江戸時代に建立された、高さ数メートルのミニ富士山。
旅行する体力がない年寄りだけでなく、当時の富士山は女人禁制だったから女性も参拝できるようにした仕組みのようです。
女人禁制は男性修行僧の心を乱させないための配慮が理由のひとつだったらしく、そう知るとなるほどと思えなくもない。

2回めに訪れた晴れた夏の日に、「ちょいと登るか」とお気楽に足を踏み入れました。
そんな当初のピクニック気分を激しく後悔する出来事がすぐに起きるんですが、この話はのちほど。

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すいすい登っていけそうな石段。「簡単かんたん!」とこのときは。

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登るときはちゃんと見なかった看板。ぐるりと回って頂上に行くルートが示されてます。

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鳥居をくぐっていざ出発!

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富士信仰を物語る看板が随所に。「信心で登る人に迷惑掛けちゃまずい」、と山のルールに従うことにしました。

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下を見下ろした様子。高さは低いものの、岩と草の塊はまるで異空間。七合目の案内見ると、ここが富士山だと実感します。

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ん、階段がゴツゴツしてる?

登るほど急勾配になっていき、もはや階段じゃなく石がガンガン積まれているだけのルートに。
先っぽが尖り足に刺さりそうな石も出てきて、足場が悪いったら!
すごく歩きにくく、その大きな理由は道幅が極端に狭いこと。
自然界だと道幅がありますから、好きなところに足をおけます。
ここは足運びの自由度がなく、初心者泣かせの登山道なのです。
両側にあるロープは導線を示すためと思っていたら、捕まって身体を支えるための必需品だと気づきましたよ。

いまや登るの危険!状態に。
急勾配の後ろに転びでもしたら、大怪我では済まない大惨事になりそう。
でも降りるのは登るより不安で、これまた厄介。
まさかの千駄ヶ谷で、にっちもさっちも行かなくなってるアホな大人がひとり。

もっともですね……、

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サンダル禁止。ぜったいダメ。

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ムリムリ、怪我しますって。

悪いのは裸足でスポサンを履き、片手に大きく重いバッグを持ち、もう一方の手でスマホを掴んでヘラヘラ登ってる私なんですけど。
富士塚が難儀なのは意図的にそうつくられているから。
苦労して頂上に辿り着いたときのカタルシスも再現されてないと意味薄になります。
身体が硬いド素人の大人が舐めてかかると文字通り痛い目にあうことを学びました。

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各名所を眺める余裕もなく突き進みました。

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歩きやすい道も出現するんですが、登山ルート、下山ルートとさまざまに入り組んでます。「どこ行けばいいんだ?」とワケわからなくなる瞬間も。

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ようやく頂上が見えてきました。

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ふう……なんとか富士山の溶岩でつくられた頂上に。早く脱出したくてスマホカメラでカシャっとするなり、すぐ右の下山コースに進んじゃう不信心者1名。

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古そうな説明看板の右奥に、登る人への注意書きがある小さな看板が。完全に転んでる人の絵がありますが、大げさじゃないですぜんぜん。

ところが、足早にサッと登ってサッと降りていった、日課の参拝とおぼしき背筋を伸ばした中年男性を目撃。
慣れればそんなものなのでしょう。
小さな女の子がNGなはずの下山ルートからひょいひょい駆け上がるのも目にして、山のルールに縛られない自由な心がうらやましく感じましたね。

東京都には現在50ヶ所ほど富士塚が残っているようですが、ここは建てられた当時のままとしては最古となる寛政元年(1789年)の貴重な塚。
富士塚紹介ではTOP5入りする、THE フジヅカ。
日常のなかの非日常、けっこう刺激のあるニッポン体験でした。

Photos © Kazushi