ロレックスといえば世界的な腕時計ブランドだが、近年のSDGsに先駆けた取り組みを行っており注目を集めている。そのひとつが「ロレックス賞」。このたび、2021年度の受賞者5名が発表された。受賞者は、チャド、ブラジル、イギリス、ネパール、アメリカといったグローバルな出身者たち。それぞれ地理学者で気候変動の提唱者、海洋科学者、極地探検家、環境活動家、社会起業家と多岐にわたっている。
同賞は、ロレックスが世界初の防水腕時計「ロレックス オイスター」の誕生50周年を記念して、1976年に創設された。授賞の対象は、世界の知識を深め、環境を保護し、生物や種の保存を助け、人類の福利の向上をめざすプロジェクトを推進する個人だ。ロレックスが行っている環境保護への取り組み「パーペチュアル プラネット」イニシアチヴの3つのプロジェクトのひとつでもあり、他には、シルビア・アールによる海洋保護プログラム「ミッション・ブルー」や、ナショナル ジオグラフィック協会とともに気候変動を研究する活動を支援している。
今回そんな映えある賞に選ばれたひとり、ヒンドゥ・ウマル・イブラヒムは、チャド出身の地理学者。地球温暖化によって水源が失われ、牧草地が枯れ、枯渇する資源をめぐる農民と放牧民の対立が激化するチャドで、地域の天然資源をマッピングすることでその緊張緩和に取り組んでいる。家父長制が主となる社会で女性である自分の考えを受け入れてもらうために、その環境を最もよく知り、理解し、大切にしている先住民ともていねいにコミュニケーションをとり、そして彼らの古くからの知識にも助けられながらプロジェクトを実現させた点も画期的だったという。伝統的な知識と現代科学の2Dおよび3Dマッピングの手法を組み合わせることでなしえた偉業だったといえる。
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ブラジル出身の海洋科学者ルイーズ・ロシャは、先駆的な潜水探索により、モルディブの深海のサンゴ礁を調査して新種を発見し、その保護に取り組んでいる。モルディブの水深100 m以上の場所には、不思議なサンゴや奇妙な生物が生息する未踏のトワイライトゾーンがある。トワイライトゾーンへの潜水はリスクが高く、技術的にも肉体的にも厳しいもので、高度なスキルと強い精神力を必要とする。ロシャは世界各地で70回以上の科学的探索を行い、6,000時間以上を水中で過ごすことで、その技術を培ってきた。薄暗い海へ入って地図を作り、そこに何があるのかを正確に把握することにより、新種の魚や海洋生物が数多く発見され、地球上の生命に対する理解が深まることが期待されている。
また、深海のサンゴ礁は島国にとっては重要な食料源であるだけでなく、人間の医療に役立つ新しい化学物質が含まれている可能性がある。環境破壊が進行する中で、海洋の健全性を監視するための基準ともなる。彼の発見は、世界中の海洋保護区の設計に役立つだろう。
イギリスの気候研究者であるジーナ・モズリーは、地球最北端に位置する人類未踏の北極圏の洞窟に下降し、地球の過去の気候を解明しようとしている。彼女の世界初の探索により、極地では他の地域の2倍の速さで温暖化が進み、世界中の沿岸都市では水没する危険性が急速に高まっていることが明らかになると言われている。
「洞窟はタイムマシンのようなものです。方解石は、木の年輪のように層を成しています。それぞれの層を分析することで、過去の気候に関する情報を得ることができます」と彼女が語るように、北極圏の洞窟には地球の長い歴史の中でどう気候が変動したかの記録が隠されている可能性があり、科学者たちはそこから温暖化時代の地球について手がかりを読み取ることができるのだ。
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世界で最も荒涼とし孤立した場所のひとつといわれるネパールのヒマラヤ山岳地帯のフムラでは、ユキヒョウや野生のヤクなど、減少しつつある野生動物を救うために、地域住民が保護活動に参加している。この計画を推進しているのが今回ロレックス賞を受賞した、若き生物学者のリンジン・フンジョク・ラマだ。
彼は伝説的なユキヒョウだけでなく、絶滅の危機に瀕しているヒマラヤオオカミ、ヒマラヤツキノワグマ、野生のヤク、チベットアルガリ、チベットキアン、ジャコウジカなど、ネパールの高地に生息する野生動物を保護することを生涯の使命としている。そのアプローチは実にロジカルだ。コミュニティ主導の保護活動を中心に地元のリーダーシップやビジネス、ガバナンスのオーナーシップを促進し、より回復力のある自立した山岳コミュニティを構築することで、その使命をまっとうしようとしている。同様の考えを持つ若者たちの協力を得て、彼は村の評議会やユースクラブ、女性グループなどの機関と連携して認識を広め、教育し参加を促している。
栄養失調が原因で、毎日15,000人の子どもの命が失われる現代。アメリカの社会起業家であるフェリックス・ブルックス-チャーチは、恵まれない社会で暮らす、すべての母親と乳児がとる食事に、命を救うために必要な栄養素が含まれていることを保証する独創的なシステムを開発したことが評価された。
彼が発明したのは、安価な小麦粉にビタミンB12や亜鉛、葉酸、鉄分を計量して添加することで栄養価の高い食料に変える「ドースファイアー(dosifier)」という機械。地域の小規模製粉工場が、自社や顧客に追加コストをかけずにドースファイアーを使用できるビジネスモデルも構築されている。彼が経営するサンク(Sanku)は小麦粉の袋を安くまとめて購入し、市場価格で製粉業者に販売、そのマージンで栄養素を添加するためのコストを賄っているという。このシステムは費用対効果に極めて優れており、栄養価の高い食料の供給を一人あたり年間1ドル未満で行うことができる。彼のプロジェクトは世界的なモデルとして、タンザニアの子どもたちに新しい命と希望をもたらしている。