恐らく世の中の9割以上の人は、投資におけるリスクのことを「損をする可能性」と考えているのではないだろうか。実はそれは間違いだ。投資におけるリスクとリターンは、同義語だからだ。つまり、投資リスクとはリターンのことでもある。大きく増えるものは、大きく減らす可能性もあるということだ。とにかく投資については、誤解している人が非常に多い。「投資はギャンブルのようなもの」というのも間違いだ。投資をするということは、将来の株価が上がることを予測することなので不確実な要素は大きい。誰も、明日の株価なんて正確にはわからないからだ。ゆえに不確実なギャンブルと同じ要素があることは確かだ。
だが、投資の場合「リスクをコントロール」することが可能なのだ。ギャンブルは、娯楽であり、偶然性が高いのでリスクをコントロールすることは難しい。リスクをコントロールできるところが投資とギャンブルの大きな違いと言えよう。リスクをコントロールするには、安全資産である預貯金も必ず保有しておくことが大切だ。資産の内、何割を貯蓄し、何割を投資に回せばいいのか。それはリスクの許容度(投資家が資産運用をする際に許容できるリスクの度合い)によって変わる。今回は、自分のリスク許容度を知る方法を伝授しよう。リスク許容度は、2つの考え方がある。
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(1)投資した元本がどれくらいマイナスになっても、生活に影響がないのか? 家計から考えるリスク許容度。
(2)どれくらいまでなら投資した元本がマイナスになっても、気持ち的に耐えられるか? つまりあなたの性格などによる限度。
(1)の生活への影響の側面から見るリスク許容度は、比較的わかりやすい。まず、あなたの家にある資産を書き出してみよう。そして家族の年齢から今後、必要になる支出を書き出す。2年以内に使うお金だったら、預貯金で準備しておくのが鉄則だ。たとえば、投資を活用して子どもの教育費を貯蓄するのも、必要になる2年前くらいからタイミングを見て預貯金に移動しておくとよい。さて、あなたの家計の資産を書き出して「2年以内に使うお金」と「生活費の6カ月分」は、預貯金で確保できているだろうか。預貯金が少ない場合は、預貯金を優先して貯めることが必須となる。
2年以内に使うお金+生活費6カ月分が準備できていない場合、資産的な側面から見たリスク容認度は、少なく見積もった方がいい。毎月の貯蓄額で考えれば、その10%程度が投資に回せる資金となる。たとえば毎月1万円の貯蓄ができるのだったら、9,000円を預貯金に、1,000円を投資に回すという具合だ。また、預貯金の割合は年齢によって変えた方がいい。40代くらいまでならば、生活費の6カ月分で十分だろう。だが、老後が近付いている方や年金生活者は、もっと預貯金の割合を多くする必要がある。筆者は、投資のポートフォリオ(資産構成)を年齢に合わせて構築するのはナンセンスだと思っているが、預貯金の割合は、年齢に応じて多くすることをお勧めする。収入源が年金しかない場合は、投資のマイナスをカバーするのが難しいからだ。
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「貯金は損」だということを知れば、投資の必要性は見えてくる
次に(2)の性格などによるリスク許容度の考え方について考察してみよう。行動経済学の研究で、同じ額であれば「利益の喜びよりも、損失のストレスの方がかなり大きい」ということが分かっている。しかし投資では、リスクを取らないとリターンも得られない。投資の基本は「安く買って、高く売る」ことだから、心理的には大暴落で「買いたくない時に買い」、まだまだ上がりそうな「売りたくない時に売る」と儲かるのだ。
私たち人間は「損失回避の法則」という心理が働いてしまうので、心理と逆の行動をとるのは難しい。損失回避とは、利益から得られる満足よりも同額の損失への苦痛の方が大きいことから、損失を利益より大きく評価する心理のこと。「損したくない!」という気持ちの方が強いということだ。「自分の出したお金に見合ったものが返ってくるだろうか?」「大きなお金を出して大失敗したらどうしよう……」そう考えてしまう。人間は、得をするよりも「損を避ける」傾向があるから投資を避ける傾向にある。
だが「貯金は損」だということを知れば、投資の必要性は見えてくる。銀行の普通預金の金利は0.001%。100万円を預けても、利息は1年で10円しかつかない。だが、物価の優等生と言われ、価格が安定している卵でも2020年4月の東京市場では202円だったが、2021年4月では241円に値上がりしている(Mサイズ10個パック、JA全農調べ)。1年間で39円値上がりしているのだ。100万円の預金の金利では、卵10個パックの値上がりの補填にもならない。預金だけでは、物価の上昇に負けてしまうので、結局「損」をしているのだ。
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「投資=悪いこと」といった考え方を持っている方もいる。特に親族に投資で失敗してお金を減らした経験のある人がいると、そう思うのかもしれない。また、投資詐欺でお金を失った話を聞き、警戒心から投資に消極的な人も珍しくない。そのような人たちの多くは、貯金していれば安心という「貯金信仰」が根強く残っていると感じる。貯金だったら、お金を減らすことはないと考えているのだろう。長く不景気が続いているように見える日本経済だが、モノの値段は確実に上がっている。「預貯金は安心」という古い時代の呪縛を手放して、リスクを取った人だけがお金持ちになるのだ。この格差は、大きく進んでいる。
5年前の日経平均株価を思い出して欲しい。 2016年1月4日の日経平均株価の終値は、1万8,450円。それが現在は3万円近辺で推移している。5年間で1万円以上も値上がりしているのだ。5年前に日経平均に連動する投資信託を購入していれば、大きく増えているだろう。リスクを取った人と怖がってリスクを取らなかった人。両者の格差が開いているのだ。もしコロナ禍で収入が減っているのであれば、投資をしていた人と投資しなかった人の家計の格差は大きく広がっているはずだ。
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メンタルが強い人のみが投資で大きな利益を得られる
「いまは買い時ですか?」とか「売り時ですか?」と投資のタイミングを質問されることも多い。だが、タイミングを考え過ぎて、結局「損」することになる人もいる。株価が下がるまでずっと待っていてなかなか投資を始められないのなら、さっさと投資信託の自動積立を使って毎月決まった金額を購入したほうが、結果的には上手くことが多い。そもそも、投資をしていない人が「いまが安い」なんてわからないのだ。それなら「タイミングを考えない」投資のほうが上手く。
他にも、投資を始めると株式市場の動きが気になってしまい、頻繁にチェックをして売買を繰り返す人がいる。例えば、10万円で買った株が1週間後に12万円に値上がりすると、そこで売却してしまうのだ。「どういう目的でその銘柄を購入したのか?」これを常に頭に置いておくとよい。長期的な成長を見込んで株を購入したのにら、そんなに早く売却する必要はない。その後、また上昇することも考えられるのだ。そもそも株価の変動にずっと気をとられて本業が疎かになってしまうような方は、株式投資をしないほうがよいくらいだ。最初は恐る恐る投資を始めたとしても、調子が良くなってくるとリスクを大きく取ってしまう。
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自動車の運転にたとえて考えてみよう。制限速度50キロの道路で初心者が100キロで走行したら、事故が起きる確率は高くなる。また車の運転に慣れてきたからと言って、自分の許容量を超えたスピードを出せば、大きな事故につながるかもしれない。車のスピードと同様に性格によるリスクのリスク許容度は、状況によっても変わることもある。性格によるリスク許容度を考え、最初から投資に大金をつぎ込むことは、避けた方がよい。退職金など大きな資金を手に入れたとしても、性格によるリスク許容度はわかりにくいのだから、少額にとどめるべきだ。退職金を手にしても、毎年少しずつ投資に振り分けるといい。
基本的に投資は、メンタルが強い人でないと大きな利益を享受できない。ただし、メンタルはある程度は鍛えることはできる。まず、過去の失敗は「気にしない」ことだ。「あの暴落時に買っていれば」「あの高値で売っていれば」。過去の失敗を何度も繰り返して思い出してしまうと、ますます自分に自信がもてなくなる。よく、売却した銘柄のその後をチェックする人がいるが、それでは、マイナスのメンタルトレーニングをしているようなものだ。売却した銘柄は、もう2度と見ないくらいでちょうどよい。自分自身の性格によるリスク許容度は、実際に投資をやってみないとわからない。だから初心者は、少額から投資を始めるか、リスクの少ない資産も保有することだ。慣れてきたら、少しずつ金額を上げたり、リスクの高い資産を増やしたりするといいだろう。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/