「大人の名品図鑑」スニーカー編#6
空前のスニーカーブーム。毎日のように新作が発表され、バブルと言っても過言ではない状況だ。スニーカーはもはや自分を表現する大切なツール。ファッションを超えた文化=カルチャーに近い存在だ。今回は、名品と呼ばれるスニーカーが誕生した時代背景やその特徴、アイコンとして登場する映画などについて紹介する。
1988年に公開された『ワーキングガール』というアメリカ映画がある。監督は『卒業』(67年)などで知られるマイク・ニコルズ。ウォール街の投資会社で秘書として働くテスをメラニー・グリフィス、その上司キャサリンをシガニー・ウィーバー、そしてテスの恋のお相手ジャックをハリソン・フォードが演じるという豪華なキャスティング。第61回アカデミー賞に作品賞などでノミネートされ、カーリー・サイモンが歌った『Let The River Run』が主題歌賞を獲得した。
映画は80年代後半のニューヨークを舞台に、仕事に恋に奮闘する女性のサクセスストーリー。当時はいわゆる「キャリアウーマン」という言葉がもてはやされた時代だ。「ニューヨークのキャリアウーマンたちはスーツにスニーカーを履いて通勤している」とよく言われていた。この映画でも肩パッドが入ったジャケットを着た主人公テスが、オフィスに到着した途端にスニーカーからハイヒールに履き替えるシーンが冒頭を飾る。黒いストッキングの上に白いスポーツソックスを重ねて履いているところが80年代らしい。そのテスが履いていたのが、リーボックの「クラシック レザー」というモデルだ。
80年代は、それまでのジョギングに代わって、フィットネスやエアロビクスといったインドアスポーツが花開いた時期。人気女優のジェーン・フォンダが出した「ワークアウト」のビデオをきっかけにエアロビクスが女性の間で注目され、オリビア・ニュートン・ジョンが歌った『フィジカル』の大ヒットで、男性までジムに通うようになった。そしてこのブームの大きな立役者になったのがシューズブランドのリーボックだ。
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リーボックが注目を集めたきっかけ
リーボックは1900年に陸上選手だったジョセフ・ウィリアム・フォスターが設立したJ・W・フォスター社をルーツにもつブランドで、陸上選手たちのために長くハンドメイドのシューズを提供してきた。50年代に動物のガゼルを意味する「リーボック」にブランド名を変更し、70年代から80年代にかけてアメリカ市場に本格的に進出を果たしたが、その時に開発したのが、エアロビクスやフィットネスに向けた革新的なシューズだった。
『スニーカー文化史』(ニコラス・スミス著)に当時の様子が詳しく書かれている。この頃のエアロビクスのクラスでは、ほかのスポーツ向けの靴を多くの人が流用していた。エンジェル・マルティネスというリーボックの営業担当の人物が妻の通うエクササイズ教室にたまたま立ち寄ったところ、ジム内の多くの人が脚や足裏の痛みを訴えていた。そこで専用のシューズの製作を上司に進言、ほかのシューズの革よりも柔らかく、しなやかで、履き慣らしもいらないエアロビクス専用の「フリースタイル」を製作、リーボックは一挙に注目を集めたと書かれている。
テスが履いた「クラシック レザー」は「フリースタイル」に採用されたソフトレザーアッパーの特徴はそのままにランニングスタイルに仕上げたモデル。リーボックはこれ以外にも次々とヒット作をリリースし、映画が公開された前年の87年には、アメリカでの売り上げがほかのシューズブランドをしのぐまでに拡大したと記録されている。この映画のように、80年代のアメリカのセクセスストーリーを物語る名シューズだ。
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問い合わせ先/リーボック アディダスお客様窓口 TEL:0570-033-033