「大人の名品図鑑」スニーカー編#4
空前のスニーカーブーム。毎日のように新作が発表され、バブルと言っても過言ではない状況だ。スニーカーはもはや自分を表現する大切なツール。ファッションを超えた文化=カルチャーに近い存在だ。今回は、名品と呼ばれるスニーカーが誕生した時代背景やその特徴、アイコンとして登場する映画などについて紹介する。
Netflixでこの春配信された『スケーターガール』という映画がある。インドの貧しい村で育ったプレルナ(レイチェル・サンチータ・グプタ)という少女がある日、スケートボードに出合い、古いしきたりにとらわれない生き方を発見するという物語。それまで質素なサンダルでスケートボードをやっていた彼女が、終盤、大会に参加する際に先に演技を終えた少女から借りて履くシューズが、ペパーミントグリーンのヴァンズだ。彼女はこのシューズを履いて、いままでできなかった大技に成功する。
スケートボードに欠かせないどころか、サブカルチャーのアイコンとも言えるスニーカーがこのヴァンズだろう。
ヴァンズは、1966年にポール・ヴァン・ドーレンが3人の友人とともにアメリカ・カリフォルニアのアナハイムで始めたブランド。ヴァンズ(VANS)というブランド名は、「(創業者)ヴァンとその仲間たち」という意味で付けられた。
当時のヴァンズが始めたのは、製作したシューズを直接販売すること。『スニーカー文化論』(川村由仁夜 著)には、「設立当初の目的は、小売店を通さずに直接消費者に販売すること。そうすれば小売り販売価格を抑えられると考えたからだ」とある。自社工場を立ち上げ、スケーターのためにカスタムオーダーも始めた。当時販売されたどのキャンバススニーカーの生地よりも厚く、ゴム製のソールもほかのシューズより2倍の厚さを持つスケートボードシューズは、70年代のスケートボードの流行とともに広く認知されるようになった。そして、カリスマスケートボードチーム「Z-BOYS」のメンバー、ステイシー・ペラルタ、トニー・アルバといったプロスケーターからの意見も取り入れた「エラ」などを発表し、スケートボードを行う人々の必携のシューズとなった。
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あのチェッカーボード柄のシューズがつくられたきっかけとは
そんなヴァンズに映画会社から効果的な宣伝の話が持ち込まれる。1982年に公開される予定の青春映画『初体験/リッジモンド・ハイ』用にスニーカーを提供してくれないかという依頼だった。ヴァン・ドーレンはアッパーに白と黒のチェッカーボード柄がプリントされたスリッポンを選んだが、そのシューズを主人公のひとり、ジェフ・スピコリ用のショーン・ペーンが履いた。映画では足元がアップされるだけでなく、スピコリが青い靴箱からこのシューズを取り出すシーンまで描かれている。さらにサウンドトラックアルバムのジャケットではまるで映画の主人公のようにこのシューズがメインで使われ、DVDなどのジャケット写真にまでこのシューズが使われている。この映画は全米興行収入成績で最高3位を記録し、ヴァンズの名前を一挙に拡めることに貢献した。
Z-BOYSのオリジナルメンバーで、ヴァンズの名品「エラ」の誕生にもかかわったステイシー・ペラルタは、後に映像作家となっている。カリスマ的人気を誇る藤原ヒロシを描いた『丘の上のパンク』(川勝正幸 著)には、ペラルタがかつての自分たちを描いたドキュメンタリー映画『DOGTOWN & Z-BOYS』(2001年)を監督する時に、ナレーションを前述の映画でスケーター役を演じたショーン・ペンに依頼したと書かれている。どこかで縁は繋がるものだ。
「あのスピコリの声で!と盛り上がったことは想像に難くない」と川勝氏はその本で書いているが、本当だろうか? ペンは真面目にペラルタの作品のナレーションしているようにも感じる。気になる方は、一度聞き比べてみるとよいだろう。
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問い合わせ先/VANS JAPAN TEL:03-3476-5624
https://www.vansjapan.com