豪雨災害の時代を生き延びるために、必ず身につけたい「流域思考」とは?

  • 文:今泉愛子
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ここ数年、梅雨が始まる夏から台風が来る秋にかけて、各地で豪雨による災害が多発している。なぜこれほど水害が増えたのか。地球温暖化による雨量の増加、乱開発による土地の保水機能の低下などが挙げられているが、災害対策を考える上で参考になるのが、本書『生きのびるための流域思考』の中で著者が唱える「流域思考」だ。

生態学者であり、治水や自然保護に関する国や自治体の審議会委員なども長く経験した著者は、横浜市鶴見区の鶴見川近くで育ち、1958~82年までに鶴見川下流で起きた5回の大水害で被災。その経験と知見をもとに、長年、地域の防災活動に関わってきた。

その結果、鶴見川の流域は、1982年の大水害以降、大きな水害に襲われることなく現在に至っているという。本書で著者は、氾濫を引き起こしているのは、川ではなく流域だと主張する。

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豪雨に対応する治水を、流域をベースに考える

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「気象庁も国土交通省も、『水土砂災害は河川が引き起こす』と、ついつい強調してきました。氾濫を引き起こす構造として、確かに河川は水土砂災害の直接的な原因のように見えます。しかしその河川に大量の雨水を集める大地の広がりは「流域」であり、雨水や降水による氾濫やさらにそれらを水土砂災害を引き起こす川の流れに変換するのは、「流域」という地形であり生態系です」(P11~12)

つまり「流域思考」とは、豪雨に対応する治水を、流域をベースに考えることだ。一定の成果を上げている鶴見川では、どんな対策が行われてきたのか。下流に京浜工業地帯、中流、上流地域に町田市や港北ニュータウンが広がる鶴見川流域は、都市開発によって治水能力が大きく低下した。そこで流域全体を、樹木の保全や雨水調整池を設置する保水地域、水田から畑への転用を抑制して水を滞留させる機能を重視した遊水地域、下水管、ポンプ場の整備などをする低地地域に分類して対策を進めた。国と東京都、神奈川県、町田市、横浜市、川崎市など複数の自治体が連携して対策し、市民が積極的に協力した成果だ。

「河川法・下水道法の枠を超え、雨水貯留、緑地の保全まで視野に入れた総合治水対策の推進は、さまざまなレベルで市民・企業などの支援が求められたといえるでしょう。森林や公園緑地の保全にあたっては、保水力の維持強化につながる整備作業を地域(町内会)や市民が支援できます。雨水貯留を推進する分野では、個人や企業の自主的な貯留槽の設置による参加もありました」(P117)

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「流域思考」は、災害対策への大きなヒントに

こうして鶴見川は、10~20年に1度規模の一般的な豪雨なら氾濫を回避できる状況になった。そして著者の主張に同調するように、国土交通省の審議会「河川分科会」は2020年7月に流域治水という方針を発表。水土砂災害を流域という枠組みで進めていくことを宣言した。

「しかし、現実の制度・法律の世界は一筋縄ではゆかない複雑さがあります。流域治水の提言ひとつで、流域管理が一本化されるわけではありません。流域治水そのものはビジョンであり、総合的な法定対策を円滑にすすめるためには、さまざまな法律や条例等の改定、関連づけや予算執行についての課題を解決してゆかなければなりません。(2021年5月、流域治水実行のための関連法案の改定が国会承認されました)」(P183)

短期的、局所的な対策では、効果が上がらない水害対策。自治体や市民の連携を育む「流域思考」は、災害対策への大きなヒントになる。

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『生きのびるための流域思考』岸 由二 著 筑摩書房 ¥946(税込)