『全裸監督 シーズン2』で描かれた“問題”は、現代のクリエイターにとっても他人事ではない【ネタバレあり】レビュー

  • 文:SYO
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Mio Hirota

2019年にシーズン1が配信され、2021年6月24日にはシーズン2が配信されたNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督』。山田孝之を主演に迎え、伝説のAV監督・村西とおるの半生を虚実織り交ぜて描く作品だ。

80年代~90年代を舞台にした本作は、シーズン1では英会話教材のセールスマンだった村西(山田)がチンピラのトシ(満島真之介)と出会い、アダルトビデオ業界でのし上がろうとするさまをパワフルに描き、シーズン2では成功者となった村西が衛星放送に参入する野望に取りつかれ、周囲を巻き込んで破滅していくさまをドラスティックに描写。時代をかき回し、かき回された男の波乱万丈の人生、その「上昇」をアッパー&コミカルにシーズン1で、「下降」をダウナー&シビアにシーズン2で見せていく。

前回の記事では『全裸監督 シーズン2』の魅力をネタバレなしで紹介したが、今回は「ネタバレあり」で、より具体的な内容に踏み込んでいきたい。

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「安全バー」なし。急速に転げて落ちていく村西

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黒木香(森田望智)らシーズン1からの仲間たちとの決裂を描くシーズン2。

よく急展開が続き、感情のアップダウンを楽しめる作品を「ジェットコースタームービー」というが、こういった映画にしろ、あるいはジェットコースター自体にしろ、あくまで「安全」が保障されているからこそ満喫できるように思う。時間をかけてジワジワと上り詰めたのに、そこから急速に転げ落ちていくなんて、実際の人生では恐怖でしかないのではないか。『全裸監督 シーズン2』はまさにそれで、まるで安全バーなしの絶叫アトラクション。前シーズンで村西と共に破竹の勢いで空け上がっていった面々は、悲鳴を上げながら次々に潰されてゆく。

村西と共に立ち上げたプロダクションの社長で、金銭面の管理を一手に引き受けていた川田(玉山鉄二)は、独断で衛星事業に大金を突っ込む村西と対立した結果、関係が決裂。村西はスタッフや女優たちを連れて離脱し、自身の会社を立ち上げてしまう。

村西のミューズだった黒木香(森田望智)は周囲からの信用を無くしていく彼を献身的にサポートしていたが、徐々にすれ違いが大きくなり、最終的には罵倒されて出ていく羽目に。その後、彼女と共に村西のもとを去ったメイク担当の順子(伊藤沙莉)と暮らし始めるが、黒木はマンションのベランダから落下して意識不明の重体に……。

村西は撮影スタッフとして苦楽を共にした三田村(柄本時生)やラグビー後藤(後藤剛範)も裏切ってしまい、女優たちにはギャラの未払いが続き、出入りの業者からも取り立てが相次ぎ、村西の信用は一気に失墜。かつては有していたカリスマ的魅力も、常軌を逸した狂気へと変貌していく。そうして、彼はついに独りぼっちになってしまうのだった――。

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視聴者の心の内で起こる必然の「主人公外し」

シーズン2における村西のポジションは、言ってしまえば非常に危険な疫病神だ。しかも、本人にその自覚がないから始末が悪い。「衛星放送でアダルトビデオ専門チャンネルを作る」、それが使命と信じて疑わず、異を唱えるすべてを斬り捨ててしまう。そのせいで落ちぶれてしまい、地下道の片隅でホームレス同然の生活を送ることになる。

また、シーズン1の終盤で村西と袂を分かったトシは、ヤクザの一員となりこき使われ、台湾マフィアの襲撃にあい九死に一生を得たタイミングで組から脱走。ただ、それでは終わらず、最終的には古巣との銃撃戦の末に命を落とす。その間には村西との因縁の再会があり、かつての相棒同士が見る影もなくなってしまった姿は実に心痛だ。

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トシと新登場のサヤカ(西内まりや)の関係性も見どころの1つ。

シーズン1での快進撃が嘘のように、シーズン2の劇中で真っ逆さまに堕ちてゆく村西。その道程には爽快感は一切ない。むしろ「自業自得だ」と言いたくなるほど、ある種の嫌悪感が滲むのではないか。つまり、シーズン2における視聴者の「共感・同情の対象」は、村西ではなく周囲に向けられる。

これが少年漫画であれば、主人公が己の愚行を悔い、仲間のありがたみに感謝して再起する熱い展開が描かれるのかもしれないが、現実はわびしい。本作では、“笑い者”としてテレビのバラエティ番組で消費される村西の姿を残酷に映し出す。そもそも再起のドラマは、シーズン1のハワイ編で既に行われている。ここで心を入れ替えなかった結果、今回の騒動を引き起こしたわけで、実は『全裸監督』の中で村西は増長こそすれ成長はほぼしていない。だからこそ救いようがなく、視聴者の心の内で「主人公外し」が起こるのも必然なのだ。

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現代の作り手たちへのエールとも捉えられるラストシーン

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シーズン1の代名詞ともなったカメラを担ぐ村西の姿だが、シーズン2ではあまり観ることができない。

ただ、村西がなぜそこまで躍起になったのかが「わからなくはない」のが、本作の上手いところ。彼は基本的に「自分が有名になりたい・成功したい」ではなく、「アダルトビデオという娯楽を人々に届けたい」気持ちが先行している。利己的な部分も多少はあるだろうが、あくまで他者を楽しませる、をモットーとするエンターティナーなのだ。

そのやり方は決してスムーズなものとはいえないし、内側にいる人間を酷使することにもなってしまう。ただ根本にあるのは、純粋な情熱。衛星放送への参入に固執するのも、自分たちの居場所を手に入れ、より多くの人々に創作物を届けんとする想いからだ。「報連相」をしないのが村西の欠点だが、彼の想い自体は十分理解できるものではないか。異端児である彼を潰そうとする権力者たちの横やりが入らなければ、村西は仲間たちともう少し健全な関係性を築けたかもしれない。そう考えると、彼を壊したのは「時代であり、人であり、社会」とも言い換えることができる。

良いものを作り、提供するために生じてしまう摩擦や犠牲をどう考えるか――。これは、大なり小なりコンプライアンス社会でクリエイターたちが直面している困難に通じるのではないか。つまり、『全裸監督 シーズン2』で描かれる問題というのは、そのまま映画やドラマの制作者たちのリアルにも重なっていく。

80~90年代には許されたことが、徐々にそうではなくなった結果、今日につながった――。こうした“新時代のものづくり”に対応できなかった人物を、映画・テレビ業界を脅かす“黒船”である配信大手のNetflixが描くシニカルさ。渋谷でゲリラ撮影を敢行する“ものづくり狂”の村西が、現代の異物であり前世紀の遺物となってしまうラストシーンには、何とも言えない寂寥感が漂っている。

冒険のできない時代、映画やテレビはどう戦うべきか。渋谷駅前を看板でジャックし、村西のように古いタイプの作り手をある種の“絶滅危惧種”として扱う『全裸監督』にかけられた発破を、どのようにやり返していくのか。最終話で登場する若手ディレクターが村西に感化され、作り手の“業”に目覚めていく姿は、いまを生きる作り手たちに向けたエールなのかもしれない。

『全裸監督 シーズン2』

総監督/武正晴
出演/山田孝之、満島真之介、玉山鉄二ほか
2021年 全8話
Netflixで独占配信中。
https://www.netflix.com/jp/title/80239462

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