世界で絶賛を浴びる映画監督・濱口竜介にインタビュー、 独特な映画作りの裏側

  • 写真:平岩 享
  • 文:久保玲子
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© 2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

劇場デビュー作は時間超の長編『ハッピーアワー』。以後、一作ごとに新しい表現に挑む濱口竜介監督は、海外から最も熱い視線が注がれている監督のひとりだ。

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濱口竜介●1978年、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』が映画祭で評判を呼ぶ。東日本大震災の被害者を追ったドキュメンタリーなどを手がけた後、15年、長編『ハッピーアワー』を発表。21年、『偶然と想像』でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。

『パラサイト』のポン・ジュノらが注目し、その名を挙げる映画監督、濱口竜介。2015年に5時間17分の映画『ハッピーアワー』を公開した時、長尺にもかかわらず、観客が長蛇の列をつくったことでも衆目を集めた。18年には初の商業映画『寝ても覚めても』がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出され、昨年は『スパイの妻〈劇場版〉』の脚本を書き、恩師の黒沢清にヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞を贈った。

さらに今年3月には短編集『偶然と想像』がベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞、7月に開催のカンヌ国際映画祭では『ドライブ・マイ・カー』がコンペティション部門に選出と、快進撃を続ける。

「『ハッピーアワー』はジョン・カサヴェテスの『ハズバンズ』の女性版を、というアイデアから始まりました。脚本は、これを演じろという指示書ではありません。無理なくその人から出てくるような言葉かどうか?演じる人に迷いがあるなら、それはこちらがリライトしなくてはいけません。この時の経験がいまにずっとつながっています」

その壮大なスケールで予想不能な場所へと観客を連れてゆく『ドライブ・マイ・カー』については、濱口が村上春樹の原作にある言葉に惹かれ、映画化を決めたという。西島秀俊演じる演出家が目指すところは、監督・濱口の映画製作の命題と重なる。

「村上小説の映画化はプロデューサーからの提案でした。商業映画の場合、『これが面白い』という、ときに言語化できない自分の判断基準を共有できるプロデューサーの存在は重要です。もともと他の村上小説を提案されていたのですが、〝ある言葉をその人のいちばん奥深いところから出す〞という『ドライブ・マイ・カー』の表現に共感していたので、これならできるかなと思ったんです」

俳優と職業俳優ではない役者とが入り交じり、座ったままで何度も本読みする、濱口の独特のリハーサル風景も劇中で描かれる。

「そもそも映画はつくりものですが、そこに〝もうひとつの現実〞が立ち現れる瞬間を僕は見たい。抑揚を捨て、セリフが身体の中に入り込むまで本読みを繰り返すリハーサル手法は、『ジャン・ルノワールの演技指導』という短編ドキュメンタリーに登場するイタリア式本読みを実践したものです。『ハッピーアワー』以降も、これができる体制をどうつくるかがカギでした。この本読みは、プロの俳優にとってもセリフを新鮮に捉えて、自分のものにしてもらう方法になるといまは感じています」

偉大なる先達の高みを見据え、濱口はフィクションの中の真実に、手を尽くしてにじり寄ってゆく。そこに心震える瞬間が待っていると信じるから。

『ドライブ・マイ・カー』

監督/濱口竜介
出演/西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生ほか
2021年 日本映画 2時間59分
8月20日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開。
https://dmc.bitters.co.jp

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快進撃を続ける、濱口監督の作品

『ハッピーアワー』

即興演技ワークショップに参加した演技未経験の4人を主演に、リアルなセリフと時間の流れを映し取った5時間17分の作品。「演技経験のない人に膨大なセリフをどうやって覚えてもらうか、試行錯誤をしました。いましている本読みはその時のプロセスが基本になっています」

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© 2015 KWCP

ハッピーアワー

監督/濱口竜介
出演/田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りらほか
2015年 日本映画 5時間17分
発売/NEOPA
Blu-ray ¥7,480

『偶然と想像』

親友が自分の元カレを好きだと気づく女の物語を筆頭に、“偶然と想像”を題材とする3つの短編で構成。「『寝ても覚めても』の後、自主映画規模の面白さも手放しがたく、エリック・ロメールの『パリのランデブー』からインスピレーションを得て撮りました」。ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。

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© 2021 NEOPA / Fictive

偶然と想像

監督/濱口竜介
出演/古川琴音、中島歩、玄理ほか
2021年 日本映画 2時間1分
2021年12月公開予定

『寝ても覚めても』

突然消えた恋人と瓜ふたつの男との間でゆれる女を描く、柴崎友香の同名小説の映画化。「なにせ5時間という前例があるので、商業映画に収めるためにも、共同脚本の田中幸子さんに力を借りました。田中さんが構造を考え、僕が変更を加えるというプロセスでした」

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© 2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

『寝ても覚めても』

監督/濱口竜介
出演/東出昌大、唐田えりかほか
2018年 日本映画 1時間59分
発売/バップ
Blu-ray ¥5,830、DVD ¥4,180

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※この記事はPen 2021年8月号「ヒットの秘密」特集より再編集した記事です。