フェイクニュースや沢山のコンテンツがあふれかえる現代、人間は、日々目にするビジュアルから知らず知らずのうちに影響を受け、無意識の偏見を蓄積していると言えます。偏見や差別は個人の見聞きしたことや経験を通して形成され、それが文化を形成し、メディアやビジュアルに反映されます。偏見や、固定観念をさらに広めないためにも、『インクルーシブ』の意味を、一人ひとりがビジュアルを通して理解することが重要です。なぜなら、インクルーシブなビジュアルは、物事を正当に表現するだけでなく、より多くの人々へ受容や理解を促すことができるからです。
私が所属するGetty Imagesでは、世界中のクリエイターから提供された写真、ビデオ、イラストなどのクリエイティブ素材、そしてニュース、スポーツ、エンタメといった報道素材を取り扱っています。このような素材は、広告、TV、映画、書籍、オンラインメディアなどさまざまな媒体で使用されており、Getty Imagesでは特に"ダイバーシティ&インクルージョン"を尊重するビジュアル制作に力を入れています。私のコラムニストの記事では、Getty Imagesで導き出したビジュアルインサイトに基づき、よりインクルーシブなビジュアル表現、私たちの行動喚起に結びつくビジュアルに関して考えていきたいと思います。
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第一回目のテーマは、「LGBTQ+コミュニティのビジュアル表現」に関してです。
LGBTQ+といえばマツコ・デラックスさんのようないわゆる「オネエ枠」のタレントが真っ先に浮かび上がる方が多いのではないでしょうか。私もマツコさんが大好きですが、日本のお茶の間では、派手でコミカルな「オネエキャラ」としてのLGBTQ+という固定概念が老若男女に浸透している事実も否めません。現に、Getty Imageが行った最新の市場調査によると、日本の消費者は、ジェンダーやライフスタイルの選択にかかわらず、他人のありのままの姿を受け入れる寛容さがある一方、LGBTQ+のステレオタイプを認識する力が世界と比べて欠如していることも判明しました。
電通ダイバーシティ・ラボが2019年に日本で6万人に行った調査によると、11人に1人(8.9%)がLGBTを自認しているとのこと。世界の統計と比較しても、日本のLGBT人口が多いにもかかわらず、現在の日本では、同性婚は合法でない、トランスジェンダーの方が法的に性別を変更するためには、不妊手術を受けなければいけない、そしてG7諸国の中で唯一、LGBT平等法もないなど、LGBTQ+コミュニティを守る法的権利が存在しないという矛盾が生じています。
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近年、マーケティングやメディアにおいては、LGBTQ+コミュニティが受け入れられつつあるように見える一方、使用されるビジュアルは、誤った、あるいはステレオタイプに限定されていることが多く、このコミュニティを構成するすべての人々を表現できていないことが大半です。たとえば、ゲイの男性が女性的に、レズビアンの女性は男性的に、レインボーフラッグを持ってデモ行進やパーティする姿が描かれる例が挙げられます。
日本の映画やテレビ、BL作品の世界においても、LGBTQ+の描写は、必要以上に美化されて描かれることが多いと言えるのではないでしょうか。『彼らが本気で編むときは、』や『きのう何食べた』に見られるように、LGBTQ+のキャラクターは、当事者ではない(もしくは公にカミングアウトをしていない) 俳優によって演じられていることが大半で、このような作品は、日本の幅広い層にポジティブに受け入れられ、商業的にも成功している反面、現実に根ざしていないのではないかという懸念もあります。現在の日本において、このコミュニティがメデイアに「まったく取り上げられないよりはよい」という当事者の方からの意見もあるようですが、このコミュニティの現実を見せない表現は、ステレオタイプを生みかねないという点も、考慮しなければなりません。
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ではこの先、どのようにしてビジュアルを見る力を鍛えていけばよいでしょうか?Getty Imagesが発表したLGBTQ+ガイドブックから、チェックポイントをご紹介します。
・シスジェンダーの俳優が演じるのではなく、LGBTQ+の当事者たちが表現されていますか?
・プライド月間だけではなく、LGBTQ+コミュニティの内外での経験を表現していますか?
・カップルではないLGBTQ+の人々の日常も表現されていますか?
さまざまなジェンダー表現に配慮していますか? トランスジェンダーであるという事実を超えて、人生経験の側面に焦点を当てていますか?
ジェンダーの定義にとらわれない人々を表現していますか?ノンバイナリー、エイジェンダー、ジェンダーフルイッドなど、ジェンダーを固定しない立場をとる人々を尊重したビジュアル表現ですか?
・ジェンダーの固定観念にとらわれていないでしょうか? たとえば、特定のタイプの服、色の選択などに関しても考えることも重要です。
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無意識のうちにステレオタイプなビジュアル表現に賛同していないか、常に自分自身に問いかける事が重要です。このコラムを書いている途中で、『クィア・アイ in Japan!』に出演されていたKANさんが、パートナーとご結婚されるために渡英することを発表。歌手の宇多田ヒカルさんが、ノンバイナリーであるということをインスタグラムで公表されました。このように、LGBTQ+コミュニティを構成するさまざまな方々が声を上げることで、インクルーシブなビジュアル表現も向上し、より多くの人々へ受容や理解を促すことができるのではないかと期待しています。
Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。