今年の夏はスクリーンで観られる音楽ドキュメンタリーが続々と公開に。時代が生んだポップスターからジャズシンガー、伝説のバンドから海辺のDJまで、劇場で体感したい、バラエティに富んだラインアップが揃っている。
『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』
先日、14歳の頃のアジア人差別発言で謝罪に追い込まれたビリー・アイリッシュ。ついに日本でも劇場公開される本作は、彼女が自宅で兄とともに曲作りをする様子からはじまり、昨年のグラミー賞で18歳にして主要4部門を史上最年少で受賞するまでの日々が収められている。
どんなときも変わらずにサポートをする両親とプロデューサーでもある兄、彼女が「私の一部」だというファンたちが感極まって涙するライブ、「17歳まで生きられると思わなかった」と語り、リストカットをしていた過去。愛してやまないジャスティン・ビーバーとの交流にはしゃぐ姿。音楽産業的な視点からではなく、瞬く間にアイコンとなったビリーに寄り添ったドキュメンタリーに仕上がっている。また、劇場ならではの大画面とドルビーサウンドでのライブシーンも見どころのひとつだ。
『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』
監督/R・J・カトラー
出演/ビリー・アイリッシュ、フィニアス・オコネルほか
2021年 アメリカ映画 2時間20分
新宿ピカデリーほかにて公開中。
https://www.universal-music.co.jp/billieeilish-theworldsalittleblurry/
『映画:フィッシュマンズ』
作詞、作曲も手がけていた佐藤伸治が1999年に急逝してからも、メンバーや仲間たちが楽曲を演奏することで活動を継続し、いまも熱狂的なファンを持つバンド、フィッシュマンズ。リーダーであり東京スカパラダイスオーケストラのドラマーでもある茂木欣一がお墓参りに行くシーンから幕を開け、貴重なライブ映像やメンバーをはじめUA、原田郁子、ハナレグミ、YO−KINGらのインタビューによって、バンドが歩んできた道のりが描かれている。
クラウドファンディングで製作された、熱量あふれる172分。フィッシュマンズのファンはもちろんのこと、彼らの音楽に初めて触れる人の心にも届くであろう誠実な言葉と、時代を超えて聴く者の心をつかむ音楽が記録されたドキュメンタリーだ。
『映画:フィッシュマンズ』
監督/手嶋悠貴
出演/佐藤伸治、茂木欣一、小嶋謙介ほか
2021年 日本映画 2時間52分
7月9日より新宿バルト9、渋谷シネクイントほかにて公開中。
https://fishmans-movie.com/
『BILLIE ビリー』
黒人差別の惨状を歌った『奇妙な果実』などで知られ、44歳でこの世を去ったジャズシンガー、ビリー・ホリデイ。謎の死を遂げたジャーナリストによる200時間にも及ぶ周辺人物へのインタビューを録音したテープが発見され、それをもとにした1本の音楽ドキュメンタリーが完成した。ビリーに関する多角的な証言から浮かび上がってくるのは、強さと弱さを併せ持つ複雑なひとりの人間の肖像だ。
人種差別やセックス、アルコールとドラッグへの依存も描かれ、唯一無二のシンガーの豊かな才能が失われそうになっていく過程に胸が痛む。貴重な歌唱シーンがカラーで蘇っているのも、この作品の見どころのひとつ。孤独を引き受けたビリーの歌声は、時代を超えて聴く者の心を揺さぶる。
『BILLIE ビリー』
監督/ジェームズ・エルスキン
出演/ビリー・ホリデイ、リンダ・リップナック・キュール
2019年 イギリス映画 1時間38分
7月2日ー15日まで角川シネマ有楽町にて公開、他全国順次公開
https://billie-movie.jp/
『太陽と踊らせて』
イビサといえばパーティピープルの聖地というイメージを持っている人が多いのではないだろうか。しかしこの映画でフィーチャーされているのはクラブミュージックではなく、島の最南端のビーチに建つ小さな海小屋で、25年以上もDJをしているジョン・サ・トリンサ。イギリスから移住してきた彼はさまざまなジャンルの音楽をシームレスに紡ぎ、ビーチを訪れる人たちに幸せなストーリーを届け続けている。
乾いた風とまばゆい光を感じる海辺の映像と音楽が重なって、息がつまる今年の夏、チルアウトしたいときにも最適な1本。台湾生まれ新宿歌舞伎町育ちのリリー・リナエ監督が、自由でフェアな魂をもつジョンと音楽への敬意を携えて完成させたドキュメンタリーだ。
『太陽と踊らせて』
監督/リリー・リナエ
出演/DJジョン・サ・トリンサ
2020年 1時間11分
7月24日より新宿K's cinema、アップリンク吉祥寺ほかにて公開。
http://bornbalearic.movie.onlyhearts.co.jp/