「コーヒーと植物は、生活に欠かせない存在」と言い切る俳優の滝藤賢一さん。以前から気になっていたという植物園への訪問に同行し、植物との向き合い方について話を訊いた。
芸能界屈指の植物マニアとしても知られる滝藤さん。この日はお気に入りの植物を探すためわざわざ千葉の農園まで遠征。多肉植物やサボテンを国内最大級の規模で取り揃える「グランカクタス」だ。植物を求めて都内近郊の生産者のもとを訪れることは、日常茶飯事なのだという。
「自分が信頼を寄せる都内のショップへ、厳選された植物たちを見に行くのも楽しいけど、農園には宝探しのような感覚があって、別物。千葉にはいろいろな農園があるけど、グランカクタスはとにかく数が多い。ビギナーでも手の出しやすい安価な多肉植物から、マニアでも唸るようなレアな品種が一堂に会していて、思わぬ出合いに興奮しまくりです」
滝藤さんがひそかに狙っていたのは、去年枯らしてしまったというアデニア・グロボーサ。まるで恐竜のような地肌が特徴の東アフリカ原産の植物だ。かたちのよい個体を見つけて購入しようとした矢先、滝藤さんが目を奪われたのが、通称「タコモノ」と呼ばれるユーフォルビアの一種だった。
「正直、タコモノには興味なかったけど、実物を見たらすっかり魅了されてしまった。こういった出合いがあるから農園に行くのはやめられません。妻には『仕事で行くんだから買わないよ』と言いながら、実物を見ると欲しくなってしまいますね(笑)」
大人になるほど、無心になれるものが必要なんだと思う
「植物に興味をもち始めたのは7年ほど前かな。『ネペンテス』というショップのディレクターに青柳徳郎さんというかっこいい人がいてね。彼の植物コレクションを見せていただいたのがきっかけ。こんなにハマるとは(笑)」
グリーンショップや植物にまつわるイベントなどでは、滝藤さんの目撃情報をよく耳にする。そこまで植物に惹かれる理由はなんなのだろうか。
「カッコいいからです。地球上になぜこんなに美しく、生命力に満ちあふれた神秘的なものがあるのだろうかと、不思議でならない。植物は生き物ですから、買った以上、育てる責任があるので育成方法も詳しい人に聞きまくります。その道のプロの方たちに話を聞いてコミュニケーションを取るのが楽しくてしかたないですね」
滝藤さんの自宅には、300鉢を超える植物があり、南向きのバルコニーには温室を完備するなど、育成する環境もしっかりと整えている。たまにある休日に植物たちを愛でることが、最高の気分転換になるのだと断言する。
「春先は夏型植物が芽吹く時季だから、最高に楽しい。植物を育てるようになってから、季節の変わり目をより意識するようになりました。休みの日になると一日中バルコニーにいて、植物の植替えをしている。とにかく無心になれる。大人になると、仕事や家庭でなにかと考えることが増えるでしょ? だからひとつのことに没頭する時間ってすごく大事だと思う」
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力強い生命力を湛えた、偶然の産物を育てる醍醐味
最近始めたブラジリアン柔術も植物に通ずるものがあるという。
「楽しくてたまらないです。無我夢中になれて爽快感がある。目の前のことだけに没頭できて、いろいろな柵から解放される。そういう時間が必要だと本能が訴えていて、柔術を習ったり、植物を育てているんだと思います」
多くの植物を所有する滝藤さんだが、どのような基準で植物を選んでいるのだろうか。その答えは、単純明快だった。
「過酷な環境下でも進化してきた生命力を感じさせるようなビジュアルがいちばん。同じ品種の植物でも、現地で育ったものと農家さんが種から育てた実生株みしょうかぶでは全然見た目が違うし、それぞれにそれぞれのよさがあります。だから理想的と言われるようなかたちのものより、偶然に偶然が重なって、唯一無二のかたちになった自然の美を感じさせるものが好きです。そんな偶然の産物を育てるのも、この趣味の醍醐味なんです。日光が不足すると徒長してかたちが崩れてしまうし、原産地の気候が日本とはまったく違う植物も多いから、すごく気を使う。その試行錯誤に悪戦苦闘しています。うちの植物は、育成に向いているプラスチック製の鉢で統一しています。陶器製の鉢もかっこいいけど、植物の数も多すぎるし、忙しいのでなかなか毎日は面倒が見れないんです」
グランカクタス
住所:千葉県印西市草深天王先1081
TEL:0476-47-0151
営業時間:9時~17時(4月~10月)、9時~16時(11月~3月)
定休日:月~木
www.gran-cactus.com
※この記事はPen 2021年7月号「コーヒーとグリーン、ときどきポッドキャスト」特集より再編集した記事です。