ビールのおいしい季節がやってきた。クラフトビール文化が定着し、ブルワリーが全国各地に存在するいま。醸造家の思いや創意工夫が詰まった個性的あふれる味わいで、ビールを飲む楽しみはいっそう広がっている。「魚に合うビール」をコンセプトに掲げるのは、この春、新たに誕生した「ISLAND BREWERY」。場所は九州北部の玄界灘に浮かぶ長崎県の離島、壱岐島。長崎県唯一のブルワリーだ。
壱岐は青い海と豊かな自然に彩られた、南北17km、東西14kmの小さな島。ウニやイカをはじめとする新鮮な魚介類やブランド牛の壱岐牛など、美食の宝庫。そして、16世紀までその歴史を遡る麦焼酎発祥の地でもある。ISLAND BREWERYを立ち上げたのは、明治時代より代々焼酎や日本酒造りに携わってきた原田酒造の5代目で、麦焼酎の製造に20年近く邁進してきた原田知征。「おいしい食べ物とおいしいお酒は切り離せない関係。壱岐は焼酎造りが盛んな地で、7蔵が麦焼酎を造り、少し前には日本酒造りを復活させた蔵もある。ここにクラフトビールが加われば、島がもっと楽しく、面白くなるに違いないと考えたんです」と転向の理由を話す。
ISLAND BREWERYがあるのは島の北端にある漁師町、勝本浦。街の中心で造り酒屋を営んできた築130年以上の実家を大改装し、醸造所とタップルームを新設。地元の人たちが見慣れた風景をできるだけ損なわないよう、外観や建具などはそのまま使った。タップルームは壁や床にビールを思わせる色を塗り、落ち着いた雰囲気に仕上げている。
造りたてのビールを新鮮な海の幸とともに
クラフトビールのラインアップは定番が3種類と季節限定が4種類。すべて、カナダやドイツの麦芽、アメリカのホップを使った、上面発酵で造るエールタイプだ。大きな特徴は麦焼酎造りに使う白麹を取り入れていること。「地元の家庭のテーブルには日々新鮮な魚が並び、海の幸を目当てに訪れる観光客の方も多い。地元に密着した醸造所にするために“魚に合うビール”を軸に定めました。魚に合うビールを追求していたら、麦焼酎にも使っていた白麹がぴったりだった。柑橘のような爽やかな酸味ですっきりした味わいに仕上がり、お造りや魚料理との相性が抜群にいいんです」と原田。麦焼酎発祥の地という島の歴史や先祖代々へのオマージュという思いもあると言う。
ブルワリーのフラッグシップビール、ゴールデンエールは柑橘系ホップのフルーティな香りをまとった軽やかな飲み口。ホップの香りと苦味を楽しむアイピーエーは、トロピカル系ホップで南国フルーツのような香りをまとわせて。壱岐産の柚子と白麹をふんだんに使ったゆず麹エールは、柚子の香りが広がるカクテルのような奥行きある味わいに。これら定番に加え、現在はローストした麦芽を使うブラウン・アイピーエー、壱岐産のイチゴを贅沢に投入したイチゴサワーといった季節限定の味を揃える。
タップルームでは、造りたての新鮮なビールとともに、地元の人気居酒屋や商店街と連携したフードメニューも楽しめる。たとえば、フィッシュフライは、競りの免許を持つ居酒屋の店主が、朝、漁港に揚がった魚を自ら競り落とし、すぐに下拵えしたもの。お造りのテイクアウトも余裕があれば対応してくれるという。壱岐牛サイコロステーキの壱岐牛は近所の精肉店からの仕入れだ。
地元で愛されるブルワリーを目指して
実は原田、アルコールを受け付けない体質で、お酒は飲めないらしい。「だからこそ、ひとつのスタイルにこだわらず、フラットな目線で取り組めるというのはありますね。お酒の味わい自体は大好きですし。でもビールの苦味はやや苦手。同じように苦いからビールが嫌いという人は多いと思うんです。裏テーマとして、ビールが嫌いな人も楽しめたり、好きになるようなビールを造りたいというのもあります」
ブルワリーのオープンからもうすぐ2カ月。地元の人たちに受け入れてもらえるか不安だったというが、評判は上々のよう。「近所の人が早くも通ってくれたり、おいしいって聞いたからと口コミで島内のあちこちから来てくれたり。嬉しいし、励みになります。これからも地元の人や観光客の方に楽しんでもらえるような、壱岐らしさを大切にしたビールを造っていきたい」と意欲満々だ。
ロゴマークに使ったのは漁師町ならではのモチーフ、漁船の放電灯。そこには、強い光を放つ放電灯のように、生まれ育った商店街を明るく照らしたい、島全体を盛り上げたいという強い思いが込められている。
小さな島に誕生した小さなブルワリー。これからどう地域を盛り上げていくかが楽しみだ。
ISLAND BREWERY
長崎県壱岐市勝本町勝本浦249
TEL:0920-42-0010
営業時間:10時〜22時(21時30分L.O.)
不定休
https://iki-island.co.jp