俳優・仲野太賀と安部勇磨(never young beach)の知られざる関係

  • 写真:興村憲彦 
  • 文:加藤一陽(ソウ・スウィート・パブリッシング)
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笑いの絶えないインタビュー現場。同世代で活躍するものの、これまであまり語られてこなかった安部と仲野の意外な関係性とは?

never young beachのフロントマン・安部勇磨がリリースした初のソロアルバム『Fantasia』。プライベートで本当に仲がいいという俳優・仲野太賀を招き、『Fantasia』についてはもちろん、お互いの関係性から仕事感までをふたりに聞いた。安部の友人でありnever young beachのファンでもある仲野は、『Fantasia』をどう聴いたのか?

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ふたりが出会ったきっかけは?

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安部勇磨(あべ・ゆうま)●1990年、東京都⽣まれ。2014年にnever young beachのボーカル&ギターとして活動を開始。すべての詞曲を⼿がけている。21年にソロ活動を開始し、自身初となるソロアルバム作品『Fantasia』をリリースした。

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仲野太賀(なかの・たいが)●1993年、東京都生まれ。2006年俳優デビュー。現在放送中のドラマ『#家族募集します』(TBS)に出演中。21年秋に国際共同製作映画『ONODA(原題)』が公開予定。

──取材前に写真撮影しているところを見ていたら、おふたりが本当に仲がいいのが伝わってきました。

仲野太賀(以下、仲野):そうなんですよ。

安部勇磨(以下、安部):本当にそう思ってる?

仲野:仲、いいでしょ(笑)。でも安部ちゃんの……あ、普段“安部ちゃん”って呼んでいるんですけど、今日は“安部さん”で。安部さんとは仲はいいですけど、安部さんのほうが僕のことを好きですね。会うたびに「最近誘ってくれないね」しか言わないんですよ。

安部:あははは。『Fantasia』のジャケット写真を撮ってくれた奥山由之くんを含めた3人で遊ぶのが定番なんですけど、太賀君も写真をやるからふたりで写真の話をしたりしていて、最近僕は呼んでもらえなくて。

仲野:もともと僕が奥山さんと出会って仲を深めていて、奥山さんがネバヤン(never young beach)のライブに誘ってくれたんですよ。僕、ネバヤンの曲を以前から聴いていたから、ぜひ行きたいって。それが初めて会ったきっかけです。

安部:中野サンプラザホールのライブ(2018年)だよね。その後で太賀君がもともと遊んでいる友人との会に呼んでくれて、初めてそこでちゃんとお話をさせていただいて。

仲野:そうそう。それから安部さんが家に招いてくれたんです。その時、朝の56時くらいまで大富豪とダウトをやって距離が近くなりました(笑)。僕、普段お酒を飲むんですけど、安部さんは飲まないんですね。だからシラフで遊ぶんですけど、それがすごく新鮮で。自分の中に隠れていた童心みたいなものが、安部さんから引き出されていったんです。小学生や中学生の頃に友達と遊んでいたような感覚で。

安部:いまではどちらかが唐突に「今日なにしてんの?」って連絡をする感じです。奥山君に対してもそうだよね。あんまり大人の関係過ぎてもつまらないから、失礼を承知で「おい、いまなにやってんだよ?」みたいな。太賀君と仲よくなった時も、もちろん役者さんだとは知っていて、「どんな人がこういう仕事をしているんだろう」って素の部分に興味があって。でも、「役者さんだ」って意識して接していても仲よくなれないような気がしたから、嫌われるかもしれないけれど、こちらも素でぶつかったんですよね。で、仲よくなったらいちばん酷いですよ、太賀君。いじめっ子で。

仲野:僕は安部さんと奥山さんより2歳下なんですけど、あまりそんなふうに感じたこともなくて(笑)。

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仕事の現場をともにするのは初めてというふたり。「僕と安部さんの間にコンプライアンスはありません(笑)」と仲野。

安部:学校だとすると、3人の中では太賀君は運動会とかで盛り上げるタイプ。僕と奥山君は気にしいだから、たまに太賀君の言うことに傷ついたりするんですよ。この前なんか、太賀君に「なんか湿ってるよね?」って言われたんです。

仲野:「ジメッとしてる」だね。

安部:「ジメッとしてるってなんだよこのヤロー(笑)!」って。まあなんか、そういうのを言い合える仲なんです。変な仕事感もなく仲よくできる人。

仲野:でも、仕事の場に一緒に出るのはこれが初めてですよね。お互いの仕事場、たとえばライブに行ったりとかはありますけど、こういうかたちで一緒になにかをするのは初めて。基本的には公的な場で安部さんと喋るのはNGだと思ってるから(笑)。喋るほど、どんどん自分たちの汚い部分が出てくる……今日はPenOnlineだからしっかりしなきゃ。

──今回の取材に先駆けて、安部さんにメールでいくつか質問を投げていて、先に回答をいただいていました。この場で仲野さんにも同じ質問をさせていただきます。まずは、「仕事観について」。安部さんの回答は、「あまり考えたことはないけれど、約束は守りたいです」とのことでした。

安部:音楽って自分でつくりたくてやっているから、“仕事”というと少し違うような気もしますから。まあでも、誰かに話をいただいてつくることもあるので、自分勝手じゃないという意味でそれを“仕事”というのであれば、なるべく納期とかは守りたいな(笑)。あんまり深く考えたことはなかったですが。

仲野:僕の話をすると、俳優って自発的になにかをすることってあまりないんですよ。お声がけいただいて、それに対して応えていく仕事だから。そんな中でも、自主性と責任をもって仕事に臨みたいです。ときには「なんでこれをやっているんだろう」と思うこともあるんですよね。そうならないように、自分がやっていることは把握しておきたいんです。

安部:僕の「約束を守りたい」というのも、太賀君の自主性の話と共通するかもしれません。音楽をつくっているといろいろな人が関わってくるし、そうすると理不尽なこと、理解できないことを言われることもあるんです。少し前はそういったものに対して「なんだよ!」とか言っていたんですけど(笑)、いまはなるべく、やるって決めたものに対してはそういうことを言わずにしっかりと向き合いながらやりたいですね。

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仲野太賀のフルアルバム2枚組を制作⁈

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年齢差は2歳で、安部のほうが年上。このふたりに、安部と同い歳の写真家・奥山由之を加えた3人がいつものメンバーだそうだ。

──おふたりにとって、「この仕事、やってよかったな」と思うポイントは?

安部:たとえばライブでは、自分も楽しいし、お客さんも楽しそうだなって思えたときは、やってよかったなって充実感があります。なかなか毎回できることではないんですけどね。

仲野:僕の場合は、作品の真ん中にいる人……たとえば監督や主演やプロデューサーだけじゃなくて、その他のスタッフの方々も「この作品、やってよかったな」って顔をしていると時は、「あ、いいかも」って思います。映画やドラマって、作品がみんなのものになっていく瞬間があるんですよ。関わっている100人くらいが「これが自分の作品だ」って誇りをもってくれる瞬間がある。それを感じたときに、自分の一生懸命さが伝わった気がするんですよね。そういう熱量の伝達を感じると、よかったって思います。

安部:そうだね。お客さんはもちろん、スタッフも含めて「今日よかったね」ってライブはある。それがあると、自分のことは抜きにしてもよかったと思う。

仲野:僕らプレイヤーが熱狂することって、簡単っちゃ簡単じゃないですか。自分が真ん中にいるような時はなおさらそう。それがプレイヤーじゃない人たちに伝わった瞬間、すごく嬉しいなって思いますよね。

──ここからは、安部さんの1stソロアルバム『Fantasia』について伺っていきます。仲野さんはもうお聴きになりましたか?

仲野:聴かせていただきましたよ。素敵でした。

安部:本当に? 「安部ちゃん、またひねくれたものをつくって!」「内向きだねえ」とか言われるんじゃないかと(笑)。太賀君がクルマの中とかで普段聴いている音楽をなんとなく知っているから、この作品はそのテンションとは違うものかとも思うし。

仲野:本人を前に恥ずかしいんですけど……そもそも、僕はネバヤンの楽曲も存在もすごく好きなんですよね。だからソロの話を聞いた時に、「え? ネバヤンでやればいいのに」って思ったんですよ。でもソロ曲を聴いてみたら、安部勇磨の純度が100%だなって。安部さんの優しくて素朴な感じも、安部さんのクセも凝縮されて“味”になっている。安部さんが影響を受けている細野晴臣さんの196070年代の雰囲気もありがなら、現代的でもある。11曲が粒立ってはいるけれど、アルバムになって完結する作品だとも思う。その意味でも、なんか“いい風合いのパッチワークジャケット”ができたみたいな、そんな印象を受けました。安部さんが理想のジャケットをつくるために、いちばんいい部分を集めて詰め込んで。こうして安部勇磨というひとりのシンガー・ソングライターの誕生に立ち会うことができて、嬉しいなって思います。

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既に次のソロ曲のイメージを膨らませ、どんどん新たな楽曲を制作していきたいという安部。

安部:そんなにちゃんと言ってくれて……太賀君がこの作品を聴いて感じるものがあったのであれば、とても嬉しいです。実はつくっている最中、デヴェンドラ・バンハートのギターが入った頃に太賀君と奥山君が家に遊びに来ていて、ふたりには「デヴェンドラがギターを入れてくれたんだ!」「細野さんがミックスしてくれたんだ!」とかも話していて。太賀君とこうして仕事の場で一緒になるのはなんだか恥ずかしいところもあるんですが、そんなことがあったから今回はお声がけさせていただいたんです。

仲野:先人のイズムとか、海外のアーティストからの影響を感じながらも、完璧な“自分の子ども”をつくったというか。普段の安部さんを知っているからこそ意外性までは感じませんでしたけど、いち友人として、才能にあふれているなって思いましたよ。もっとつくってほしいです。いろんな曲やアルバムを。

──ソロとnever young beachの作品で、明確にわけた点はあるんですか?

安部:曲をつくる時はある程度ライブを想定するから、歌詞の書き方は違うかもしれません。さっき太賀君が「作品がみんなのものになる瞬間」って話をしていましたけど、僕にとってネバヤンって“みんなのもの”ってイメージなんです。昔は自分のものって思っていましたけど(笑)、いまは自分のエゴを出すよりも、言葉、リズム、楽曲のアレンジ含め、みんなで共有しやすいものを選んでいるような気がします。みんなで聴いて楽しい曲。もちろんネバヤンならではの要素も必要だし、あまり“みんなのもの”って意識に寄り過ぎてもつまらなくなるから、常にバランスは考えていますが。

仲野:面白いですね。

安部:一方で、ソロはすごくワガママにつくりました。聴いてほしいって気持ちはあるんだけど、「聴いてください!」っていうのは違うし、CDショップで「名盤!」みたいに紹介されるのとも違うテンションで。ふとした拍子で聴いた人に「なにこれ、めっちゃいい」って思ってもらえれば、それでいいなって感じなんですよね。普段は「B面になっちゃう曲かもな」とかいろいろ考えるんですけど、今回はもう、自分の好きなことを追っていった感覚。そういう温度感だからこそ、細野さんやデヴェンドラさんとこの作品で出会えたのかなと。あの方たちって、こちらが気合いを入れると「ふわ~」って離れて行く、紙みたいなところがあるじゃないですか(笑)。

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安部と出会う以前からネバヤンの楽曲が好きだったと語る仲野。今回の新譜にはnever young beachでは見えない、安部らしさを感じという。

仲野:安部さんの曲に対するこだわりとか、逆にこだわっていないところとか含めて、安部勇磨というアーティストの部屋にいるような感覚になる作品ですよね。いい風合いのソファとテーブルがあって、コーヒーがあって、いい匂いがして、日差しが入ってきて……。そういう生活の機微みたいなものが、ものすごい密度で入っている感じがするし、それが居心地がいい。素敵だなって思いました。

安部:気合いを入れ過ぎてつくると、人によっては若干邪魔な音になったりするんです。悪いことではないけれど、その時のメンタルによっては「ちょっとこれ、いまは聴けないな」みたいに。だから今回は「あなたが聴きたい時に聴いてくれたら嬉しいよ」くらいのテンションを目指していたんです。それと今作をつくっていて気付いたのが、自分はかたちになり過ぎる前の過程が好きってこと。というのは、曲をつくっているときは楽しいし、「自分、天才だ!」とかなんて思うこともあるんですけど、工程が進んで完成度が高くなるにつれて飽きてきてしまうんですよね。

仲野:すごいな。バンドをやっている人がソロをやる時はやっぱりリキんでしまうと思う。それなのにここまでリラックスした雰囲気の作品をつくれることに恐ろしさも感じます。表現者って、力を入れることに関しては経験や技術がある。でも、抜くことってとても難しいんですよね。その塩梅が絶妙だと思いました。

──初めてのソロアルバムを完成させて、どんなお気持ちですか?

安部:レコーディングしたのは去年の23月辺りで、つまり、もう1年以上経っているんです。だから自分の中では、もう消化している感じがありますね。初めてのソロ作品だったから、いい意味で「もっとこうすればよかった」とか、そういうのが尽きません。たとえば、僕は自分なりにどんな影響があって作品ができたのかをわかっているので、もっとオリジナリティというか、“自分の音”っていうものを考えないとなあ……とか。だから、またどんどんつくっていきたいって思っていますね。もう既にソロの曲としてイメージしてつくり始めているものもあるし。

仲野:楽しみです。これからどんどんオリジナリティの純度も上がっていくだろうし。いまの時点でもオリジナリティにあふれていますけど。

安部:まあ、これからもいろいろな人に影響されていくんだと思うんです。そんな中でも、「大まかに見たらあのアーティストに近い雰囲気だけど、近くで見たらちゃんと安部勇磨の作品だな」と、そういう作品ができたらいいなって思います。

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安部の1stソロアルバム『Fantasia』。ジャケット写真は奥山由之によるもの。敬愛する細野晴臣が4曲でミックス、デヴェンドラ・バンハートが2曲でギターで参加しているのもトピック。

──では最後に、「今後の展望について」。これに対して安部さんは、「特にありません」とのことでした。

仲野:あはははは! ふざけんなよ!

安部:いや、めっちゃ悩んだんだよ! ライブする時もさ、メディアの方に「今日の意気込みは?」って聞かれることがあるんだけど、なるようにしかならないというか。細野さんだって、「行き当たりばったりだったよ」とか言うじゃないですか。でも、そうやってつくった結果、今回も細野さんやデヴェンドラが参加してくれたり、こうして太賀君と話ができているから。もし上手くいかなかくてもそのほうが楽しいし、“展望”とか言うと自分に圧がかかっちゃう。展望自体はなんとなくはあるけれど、それは大きな声で言うようなことではないかな。いまの楽しい状態がずっと続いていけばいいなって感覚ですね。

仲野:僕も行き当たりばったりでありたいんだけれど、すごく考えてしまうタイプなんですよね。もっと心でやりたいと思ったことをやりたい。これから30代に入るんですけど、だからこそいろいろな挑戦をして、自分の可能性をどんどん広げて小さくまとまらないようにしたいです。それと、僕は安部さんのMV出演のオファーを待っています。

安部:ああ、それを言ったら僕も展望、ありますよ! 太賀君に曲をつくらなきゃって勝手に思っています。もしも太賀君が歌う場合、これだけ仲がいいのに、曲のオファーが僕じゃなかったらどうしよう……て思っています(笑)。よく言っているのは、「あいみょんさんに行ったら拗ねちゃうよ!」です。「太賀くんの場合は、僕か永積タカシ(ハナレグミ)さんだよね。そうじゃなかったら、なんだか妬いちゃう」みたいな。永積さんも共通の友達なんですけど。

仲野:そんなそんな、僕からしたら、どなたでも贅沢過ぎて。曲をつくっていただけたら、ありがたいですね。じゃあ……フルアルバム2枚組、すべてつくってください。お願いします(笑)!

安部:フルアルバムはちょっと大変だなあ……なんて(笑)。でもまあ、なにかやりたいですよね。お金とか発生しなくてもいいから、仕事じゃない感じでやりたい。「やだよ!」とか言い合える関係の人たちとなにかをやるのがやっぱり楽しいですからね。それが展望かもしれません。

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ふたりで公の場に出ることは珍しいという安部と仲野。安部の新作を手にした笑顔でインタビューが終了。

『Fantasia』
安部勇磨 POCS-23012 ユニバーサルミュージック ¥2,970(税込)