気鋭のライター磯部涼が追う、令和早々に起きた3つの殺人事件

  • 文:今泉愛子
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『令和元年のテロリズム』磯部 涼 著 新潮社 ¥1,870(税込)

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】

元号が令和に変わった2019年、立て続けに殺人事件が起きた。早朝、近くに住む男性が登校中の小学生ふたりを殺害し、18人に重軽症を負わせた川崎の事件。元農林水産省事務次官が自宅で40代の長男を殺害した事件。京都アニメーション社(以下、京アニ)を突然訪れた男がガソリンを撒き36人が死亡した放火殺傷事件。どれも発生から1年以上が経過している。ライターの磯部涼は、3つの事件の犯人を丹念に追い、本書を著した。

川崎の事件の犯人は、伯父夫婦と暮らす家の一室に20年ほど引きこもっていたという。社会はおろか伯父夫婦ともほとんど関わりがなく、パソコンや携帯電話も持っていなかった。動機はまったく見えてこない。そんな男が事件を起こすとインターネット上には「ひとりで死ね」というコメントが殺到。磯部はこう語る。「その言葉に、多くの人が自分のことだけでいっぱいいっぱいなのだと感じました。社会全体に余裕がないのです。この状況を分析したいと思いました」

農林水産省事務次官が長男を殺害した事件では、長男が引きこもりがちな生活を送っていた。「被害者である長男のことを、自業自得と責める人が大勢いた。その人たちと事件との橋渡しができないかと思ったんです」と磯部。

京アニの事件取材では、親の都合で住むところを転々としながら社会の中でもがき続けた犯人の生い立ちが見えてきた。「犯人たちも、被害者である長男もいろんな運の悪さが重なりました。京アニ事件の犯人の場合は、そこに貧困が加わって、どうあがいても抜け切れないような状況でした」

犯罪を生い立ちのせいにするわけではない。だがどうすれば彼らはこの状況から抜け出せたのかと考えると、暗澹とする。「この本を読んでいる時間だけでも、彼らを自分とは別人格の人間として切り離すのではなく、彼らの生い立ちや社会的な背景にも思いを巡らせてほしいんです」

3つの事件は、私たちが生きる令和時代の社会を映している。



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