今年2月に完成・移転した「ZOZO本社屋」。屋根や壁は細い木材で編み込んだような造りで、ZOZOが扱う服の布地を連想させる。社員が働く姿を外から可視化した大胆な設計は、同社の物流拠点や東京オフィスを手がけてきた建築家の中村拓志が担当した。
中村は「新国立競技場」などの設計で知られる隈研吾のもとで実務経験を積んだ後、28歳で独立。2004年に竣工した「ランバン ブティック銀座」で気鋭の若手建築家として注目された。以降、住宅や商業施設、美術館、教会といったさまざまな用途や規模の建物を手がけてきたが、それらに共通するのが、地域の固有性や自然環境との関わりを重視した設計だ。
たとえば「狭山の森 礼拝堂」では、周囲の森林に自生する樹木と同化するような合掌型のフォルムを発想。「東急プラザ表参道原宿」では外のけやき並木とつながる屋上庭園を一体的にデザインした。こうした地域の特性や風景を活かす設計スタイルは、師匠の建築思想から影響を受けている。
活動の場はさらに広がり、15年から携わる徳島県上勝町のプロジェクトでは、昨年、ゴミ収集所とホテルを併設した「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」が竣工。サステイナブルな建築が話題に。独自の視点で建築の可能性を追求し続ける建築界のトップランナーに今後も注目したい。
中村拓志が携わってきた代表的な建築
【サステイナブル】
ゴミを出さない「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、持続可能な循環型社会を目指す上勝町のプロジェクト。地元産の杉丸太をそのまま使い、町民が持ち寄った古い建具や家具などの廃材をリユースしてゴミを出さない建築を追求。
【木に寄り添う/地域の固有性】
師である隈研吾の建築思想とも共通する、自然への敬意や、周辺環境をていねいに読み取った設計が中村建築の特徴のひとつ。下記のプロジェクトでは、敷地周辺に自生する木から発想し、その場所に固有の建築をつくり出した。
【ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道】
別々の階段が頂上で重なる二重螺旋構造の礼拝堂「リボンチャペル」を皮切りに、ホテルの客室、屋外テラス、メインダイニングなど長期間にわたって一連の施設を設計。瀬戸内海と島々を望むロケーションを最大限活かしている。
中村拓志 Hiroshi Nakamura
1974年、東京都生まれ。鎌倉と金沢で幼少期を過ごす。99年、明治大学大学院修了後、隈研吾建築都市設計事務所に入所。2002年に独立し、NAP建築設計事務所設立。日本建築学会賞(作品)、日本建築家協会賞の他、国内外での受賞歴は多数。
【師匠】隈 研吾
日本最大規模のアトリエを構える世界的な建築家。木材など自然素材を用いた建築を多数手がける。
【弟子】井川充司(IKAWAYA建築設計)、田中裕一・中本剛志(STUDIO YY)
中村のもとを巣立った若手建築家が、近年数々のアワードを受賞したりプロポーザルで優勝するなど活躍している。