人はなぜ争うのか、考えるきっかけになる絵本4冊

  • 写真:青野 豊
  • 文:松浦 明(edible.)
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その悲惨さ、その苦しみを知りながら、結末に想像がつきながら、なぜ人間は争いを止められないのか。平易な文と親しみやすい絵とが、哀しみの色を帯びて胸を熱くする、新旧の名作をどうぞ。

『へいわとせんそう』

左に掲げたふたつの見開きを見てほしい。戦争を知る詩人の端的な言葉、そしてピクトグラムのごときシンプルさで表現されたイラスト。この組み合わせが百万もの、千万もの語句で言い立てるよりも雄弁に、力をもって、読む人の胸に迫ってくる。全編がモノトーン、そしてたった1カ所だけはなんの絵も配されず、もう1カ所には写真が使われている。その意図は? 世代の異なる誰かと一緒に読みたい一冊。

たにかわ しゅんたろう 文 Noritake 絵 ブロンズ新社 2019年

『せかいでいちばんつよい国』

大人気絵本『ぞうのエルマー』シリーズの作者が、米ブッシュ政権の中東政策への抗議の意を綴ったとされる大人向けの寓話。明るく色調豊かな絵とは裏腹に、主題は戦争=侵略を繰り返す大国の傲慢さを突いていく。「人々を幸せにするため世界を征服する」など、ひとりよがりなプロパガンダを掲げる作中の大統領を、作者は風刺画で鳴らした腕で痛烈に皮肉る。現代の「裸の王様」と揶揄されるトランプ大統領にも読ませたい!

デビッド・マッキー 作 なかがわ ちひろ 訳 光村教育図書 2005年

『戦火のなかの子どもたち』

赤いシクラメンの花を見つめながら、著者・岩崎ちひろは戦火に散ってゆくベトナムの子どもたちを思っていた。ベトナム戦争のさなか、なにかに突き動かされるように綴られた本書。目の前で小さな子どもが死んでいく現実。孤独、飢え、恐怖。ちひろは自身の第二次世界大戦の体験を何度もフラッシュバックさせる。シクラメンの“赤”は、子どもたちの心をえぐる戦争への憤りの象徴なのだろうか。静かなる祈りを、読み手も反芻せずにはいられない。

岩崎ちひろ 作 岩崎書店 1973年

『ベイビーレボリューション』

ある日突然、世界中の赤ちゃんがはいはいして外に出た! 平和と愛のメッセンジャーとなるべく、ジャングル奥地も氷河もおかまいなしに進んでいく、30億の無垢なベイビーの行進。それを見た戦場の兵士たちはさあ、どうする? 浅井健一の楽曲「Baby Revolution」の世界観を奈良美智がビジュアル化。争うこと、憎しみ合うことの愚かさをまっすぐに問いかける歌詞のパワーと、奈良の絵力が凄い。

浅井健一 文 奈良美智 絵 クレヨンハウス 2019年