「月10万円の貯金ができたら、立派なものだろう」多くの人はそう考えると思う。たとえば、毎月のお給料から10万円、夏冬のボーナスから10万円ずつ、合計で年間140万円を貯金していたら、相当頑張っている気がする。
だが計算をしてみると印象は変わる。入社直後の23歳から定年の60歳まで37年間、お金を貯め続けたとする。それが生涯の貯金額とすると年140万円×37年=5,180万円だ。貯金開始のスタートが30歳ならば、30年間で4,200万円。「案外少ないな」と感じるのでは、ないだろうか?入社してから退職までの37年間一度も欠かさずに毎月10万円を貯め続けてようやく貯められるのが、5,180万円なのだ。この金額は、多いのか・少ないのか。
では、人生で必要な費用は、いくらなのか考察してみよう。まずは、結婚資金から考えてみる。ゼクシィ結婚トレンド調査によると結納・婚約から新婚旅行までにかかる費用の総額(全国推計値)は、約463万円。結婚式の次にかかる費用といえば、出産費用だろう。国民健康保険中央会発表の出産費用によると、入院料と個室などの室料差額分、分娩料・検査・薬剤料・処置などの出産費用の総額は約51万円。ただし、出産すると健康保険から出産一時金が42万円支給されるので、実際の負担額は、それほど大きくはない。
ただし、子どもを育てるのに教育費は大きな負担だ。幼稚園から大学までオール公立の場合、子ども1人当たりの教育費の総額は、約943万円。さらに家族が増えると住宅も必要になる。フラット35利用者調査によると、住宅の平均購入価格は、建売住宅は約3,340万円、マンションは約4,270万円だ。そして収入がなくなる前に、老後資金も貯めておく必要がある。大きな話題となった「老後2000万円問題」。2000万円の根拠は、高齢夫婦無職世帯の毎月赤字額の平均値が約5.5万円、老後30年間で5.5万円×12ヶ月×30年で1,980万円となるので2000万円が必要だというわけだ。
本当に必要な「老後の貯蓄」はいくらあればいいのか?
だが、本当に必要な老後の貯蓄はいくらあればいいのか。生命保険文化センターが行った意識調査によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は、月額で平均22.1万円。ゆとりある老後生活を送るための費用として、最低日常生活費以外に必要と考える金額は平均14万円となっている。必要な生活費と合算すると36.1万円になる。年金の支給額を見ると、厚生労働省が発表した令和3年の金額は、標準的なモデル世帯の年金受給額で夫婦で22万496円。22万円として計算してみよう。ゆとりのある生活費36.1万円から支給年金額22万円を差し引くと14.1万円だ。老後30年間で計算すると5,076万円となる。
さらに介護費用も考えておこう。厚生労働省の調べでは、介護保険受給者の1人当たり使用月額は約16万円。平均的な介護期間は、生命保険文化センターが行った調査で4年7ヶ月なので、880万円だ。夫婦2人だと1,760万円になる。また、病気やケガなどの緊急費用として、生活費の3ヵ月分〜1年分を確保しておきたい。ゆとりのある生活費36.1万円ならば、433.2万円だ。少なく見積もった人生の費用だけでも、1億3,888.2万円となる。少なく見積もっているのは、子どもの教育費だ。都市部で多いのだが、子どもを中学から私立に進学させると一気に教育費が跳ね上がる。1人当たり1,700万円となる。
・結婚資金463万円
・教育費3,400万円(子ども2人として)
・マンション4,270万円
・老後の生活費5,076万円
・介護費用1,760万円
・緊急費用433.2万円
教育費にお金をかけると1億5,402.2万円となる。ただし老後には、住宅のリフォーム費用や車がないと不便な地域の場合は車の買換え費用、葬儀費用も必要だ。
・リフォーム費用200万円
・車の買換え費用200万円
・葬儀費用200万円
この費用も入れると1億6,002.2万円にもなるのだ。サラリーマンの生涯年収は、2億円と言われているが、人生の費用だけで1億6000万円だ。ここには日々の生活費は、一切入っていない。総務省統計局発表の家賃を除いた4人家族の生活費は、約33万円。子どもが成人になる20年として見積もっても7,920万円。2億3,922.2万円となってしまう。冒頭の話に戻ろう。毎月のお給料から10万円、夏冬のボーナスから10万円ずつ、合計で年間140万円を入社してから退職までの37年間で5,180万円の貯金では、とうてい足りないのだ。
運用してやっと、人生に必要な資金が確保できる
ちなみに、同じ10万円を37年間、資産運用したらどうなるのか。インデックスタイプの投資信託の市場平均は5%~9%と言われている。7%で運用できるとすると約2億965万円だ。運用してやっと人生に必要な資金が確保できるということだ。これでは、「誰もお金持ちになんかになれない」と思うだろう。それでもお金持ちは、存在する。億万長者研究の第一人者であるトマス・スタンリー博士の書いた書籍『となりの億万長者』を読んだことがあるだろうか。
この書籍のタイトル“となりの”の意味をご存じだろうか。アメリカの典型的な億万長者は、労働者階級の暮らす下町のありふれた家に住んでいるというのである。だから“となりの”億万長者なのだ。つまりお金持ちは、六本木ヒルズではなく、あなたの隣に住んでいる。なぜなら、お金を使えば資産は貯まらないからだ。お金持ちになる秘訣は、倹約に過ごし、さらにお金を運用するとこにある。
裏を返せば、収入をすべて使い切ってしまう人では、お金持ちになれないということ。「稼いだお金をぜんぶ使う」のは、お金持ちの行動と真逆だ。もちろん、お金持ちはまったくお金を使わない、ということではない。使うべきところに使って、あとは使わずに運用して持っているということだ。本当に使いたいモノにお金を使い、その他は倹約する。これがお金持ちの行動だ。
前述のトマス・スタンリー博士によると、お金持ちほど「お金のかからないこと」を大事にしているという。例えば、子どもの部活動の応援とかボランティア活動など、お金のかからない活動こそ時間を割いて参加している。そうやって倹約したお金を運用して増やせば、先進国に生まれたあなたは、お金持ちになれる可能性があるのだ。
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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。