【小山薫堂の湯道百選】第五七回 
“湯は、心まで磨く。”

  • 写真:アレックス・ムートン
  • 文:小山薫堂
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北海道帯広市で「ローマの泉」という一風変わった浴場に出合った。公衆浴場を世界に広めた古代ローマ帝国にあやかり、昭和の日本には「ローマ」を名乗る浴場が数多く存在したという。1976(昭和51)年に現オーナーが経営を引き継ぎ、燃料代を節約するため温泉を掘削。数年後に上質なモール泉を掘り当て、湯量が豊富なことからその湯の隣に「ローマノ福の湯」を開業した。

そしていまは二代目が親族とともに湯を守っている。「福の湯」は銭湯スタイルだが、「泉」は珍しい形態をとっている。昭和の匂いが残る受付の先の通路に、カラオケボックスのように14の家族風呂が連なっている。うち、3室しかないサウナ付きの浴室に足を踏み入れた刹那、心が躍った。モール泉と水風呂、ふたつの浴槽がくっついている。いつか湯道の浴室で実現したいと思っていた交互浴のための火鍋風浴槽がここに存在していた。

テルマエを思わせるビーナスと目を合わせながら、湯に身体を沈める。加温・加水のない源泉掛け流しだが、絶妙の湯加減。人肌よりもわずかに温かいヌメリのある湯は、素肌に直接纏った極上の衣と錯覚する。数分に一度、隣の水風呂で副交感神経を刺激し、交互浴を繰り返す快楽。一生ここにいたいと思うほどに心地よい。

ここには「ローマの泉食堂」という大衆食堂が併設されている。すべてを切り盛りしているお婆ちゃんの焼飯とともに湯の余韻を味わう幸せ。止まった時間の中で、先を急ごうとする心までツルツルに磨かれたのであった。


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JR帯広駅からクルマで約5分の場所。開業当時の施設をそのまま守るノスタルジックな雰囲気を湛えた共同浴場で食堂も併設する。

番台には北浜慶美さん(右)と佐藤みゆきさんが立つ。炭酸や硫黄などの成分を含むアルカリ性単純温泉で、効能は神経痛や筋肉痛など。常連だけでなく全国からサウナーも集う人気スポット。

※こちらはPen 2021年7月号「コーヒーとグリーン、ときどきポッドキャスト」特集よりPen編集部が再編集した記事です。

〈北海道帯広市〉
ローマの泉
ROMA NO IZUMI

北海道帯広市東9南12 
TEL:0155-25-5202
営業時間:11時~23時
定休日:第2水曜(1月、8月、12月は無休)
料金:¥2,000(税込、ファミリーサウナ1室60分) 
※公衆浴場「ローマノ福の湯」を併設 
http://ro-ma.jp