代名詞づかいが不可欠な英語には、人を表す三人称単数が“he”と“she”のみで、人は彼か彼女のどちらかに分類される問題がある。しかし近年、ジェンダーの多様化に伴い注目され、由緒ある辞書や報道機関などが相次いで採用しているのが、三人称複数の“they”だ。たとえばSNSのプロフィールの項目にshe/herなどと自身の代名詞を明記する人が近年増えており、they/themならばノンバイナリーで、生まれた時の性別とは無関係だと示す。表面的には性の多様性にオープンに見えるアメリカだが、偏見や差別はいまも根強い。習慣的に学校の教師は、Mr.もしくはMiss(未婚)/Mrs.(既婚)/Ms.と呼ばれ、生徒たちを“ボーイズ&ガールズ”と呼ぶ。性別が関係ないはずの日常生活で、どの性に属するのかが当たり前に言語の中で表現されているのだ。いま、意識的な言葉の選択が、ジェンダーアイデンティティに対する潜在意識を変えようとしている。