切妻屋根や梁がむき出しの、天井高約5.3m、約40畳ある開けたリビングダイニング。ファッションブランドのPRである鈴木未来さんと、建材資材・化学品の商社に勤める小山啓太さん夫妻はここのところ、自宅のこの空間で在宅ワークに勤しむ日々だ。トップライトから自然光がやわらかく注ぐ、おおらかなこの空間では、図らずもそれぞれが集中するのにちょうどいいソーシャルディスタンスが保たれる。
小山さんはいま、月の半分程度を在宅ワークに充てている。「社員が50名程度の会社なので、従前は全社員統一された勤務形態でしたが、さすがにコロナ禍の外出自粛を機に時差通勤体制、2班に分けて班同士の接触を禁止する勤務体制へと移行しました」。一方、鈴木さんは4月頭からは週に一度の出社になった。「在宅率は部で日に50~70%でしょうか。時差通勤もでき、コアタイムがなく半日出勤・半日在宅もOK」とフレキシブルに働く。
ふたりは在宅スタイルもフレキシブルだ。立ったり座ったり、椅子を手にあちこち移動して、仕事が捗りそうな「気持のいいスペース」を探して回ったり。いわば、ノマドスタイルだ。さっきまで鉢植えが載せてあったはずのスツールに、気づけば鈴木さんが腰かけていて、PCを開いているなんてことはしょっちゅう。「僕はローテーブルに座ることが多い。身体の収まりがいい感じがして、PCと向かい合いやすいんですよね」。そのローテーブルは「walrus」のもの、天板は木材だが会社支給の黒いノートパソコンを置いても違和感を生まない包容力がある。固定のデスクをもたないとスイッチが入りにくいという人もいるだろうが、働くスペースを決めすぎないほうが、暮らしと仕事が違和感なく混ざり合い、居心地がいいのかもしれない。特にふたりの場合、もともとなるべく家族全員でリビングにいることを重視し、普段から仕事の話をよくするような関係性だったそうだ。だからか、小山さんは「今回のことはさほど大きな変化と感じなかったかもしれない」と話す。つまりある日突然に、それでいて自然に、「職・住」が合わさったという感じなのだろう。きっと無理に、専用のデスクをセットして、スタートを切る必要もなかったのだ。
「対面とリモートでは伝わる情報量が違いますよね。後者の場合、より多くの情報、普段なら些細と思われる内容でも伝える、連絡を頻回にするなど、コミュニケーションの濃度を上げる必要があります」。在宅ワークが日常になってそのあたりを強く意識するようになった小山さんだが、それは家族間も同じこと。これからはきっと共に働く時間が長くなっていくだろうからこそ、日頃からコミュニケーションを密にもつのが大切だという。
「それぞれの公私のバランスが合い、多様性を認め合えれば『職住一緒』もうまくいくんじゃないでしょうか」
それぞれが電話に出る時は部屋を移動したりするくらいの心配りをしながら。子どもを保育園に送ってから帰宅する10分の間で気分をすっと切り替えて。そんな気負わない在宅ワークスタイルがそこにはあった。