大口祐介さんが家を建てようと思ったのは7年ほど前。あいにく当時は計画までに至らなかったが、その後も土地探しを続け、ついに閑静な住宅街に、カーブに沿った三角形の敷地を見つけた。残地のような場所であったが、背後に森が広がり、公園が隣接する緑豊かな立地。18歳でバイクの楽しみを知り、その後カワサキのエストレヤに出合って以来、カフェレーサーをこよなく愛する大口さんは、この地にガレージハウスを建てることを決意。現在は、大好きなバイク8台とクルマ2台に囲まれた生活を満喫している。
黒い箱が浮いたような建物は、1階のガレージスペースと2階の居住スペースがほぼ同じ面積という特殊な設計。ガレージを抜けて2階に上がると、インダストリアルなテイストの空間が広がる。フローリングは、100年前にアメリカの工場で使われていた古材を使用。モダンでシャープなデザインを得意とする建築家、布施茂さんに設計を依頼したのは意外な気もするが、「そのギャップを狙って、面白い家をつくろうと思いました」と大口さんは語る。
立地や建物の特徴を活かし、森がいちばんきれいに見える窓の高さを考えたのは布施さんだ。2階に設けられた連続窓が木々のある風景を切り取り、いわば緑のカーテンとなって室内に心地よい木陰をつくり出す。
リビングのガラス窓からちらりと見えるのは、キューベルワーゲンのクラシックカー。アメリカのリフト専門メーカー、ベンドパック社の2柱リフトで吊り上げたクルマを、まるでショーケースに入っているかのように眺めることができる。さらに床にはハッチが設けられ、1階からバイクなどをリフトアップすることも可能だ。
大口さんは、インテリアもプロ顔負けの知識をもち行動力を発揮。前述した古材のフローリングも自ら見つけてきたものだ。ヴィンテージショップで購入したホロフェーン社製の照明などは、「いずれ建てる家のために」と随分前に手に入れたものだという。キッチンやバスルームのタイル、スイッチプレートなど、通常であればプロに委ねる素材や細かな設備に至るまで、大口さんのセンスが随所に光る。
「施工現場にもしょっちゅう通いました。古材は不揃いなのでフローリング張りは大変だと思っていましたが、腕のいい職人さんが上手く張ってくれましたね」と仕上がりに大満足だ。
妥協することなく、設計にも施工にも時間をかけて完成したガレージハウス。7年間温めていた思いが余すことなく詰まっている。