沖縄県南城市の小高い丘に、大きなコンクリート屋根の一軒家がある。建築家・五十嵐敏恭さんの自宅兼事務所だ。埼玉県出身の五十嵐さんは、大学卒業後、沖縄のモダニズム建築の巨匠・金城信吉の息子たちが主宰する事務所「門(じょう)一級建築士事務所」で働き始めた。沖縄の現代建築を追求した金城信吉と同じように、五十嵐さんもこの地ならではの建築を日々考えていると言う。
「近年では沖縄も本州と同じ仕様の、高気密で窓の小さい、エアコンに頼る住宅が増えました。しかし沖縄の夏でも、木陰はひんやりとして気持ちがいい。そんな豊かな自然を享受しながら、快適に過ごせる空間をつくりたいのです」
沖縄の東海岸の海を一望できるこの家のリビングは、引き戸を全開にすると、ほぼ外と言ってもいいくらいの開放感。大きな平屋根が大木のように陰をつくり、爽やかな風が通り抜ける。また、沖縄の伝統的な民家の要素を取り入れているのもこの住宅らしさ。沖縄の民家には門と住居の間に、外からの視線をゆるやかに遮る「ヒンプン」と呼ばれる塀がある。ここでは北東に事務所を建てて家と外界を仕切る役割をもたせた。さらに事務所と住居をつなぐスペースは、ヒンプンと住居の間にある沖縄の家の前庭「ナー」と同じ機能をもっている。客人を迎え入れる玄関として、ときには子どもの遊び場として、多目的に使われるのだ。
日本本土の視点から離れ、沖縄の自然と伝統を現代的に解釈した五十嵐さん。「地に根付く建築を考えていきたい」という彼の沖縄建築が、今後も楽しみだ。