デジタルテクノロジーを駆使し、アートやデザイン、システム開発など、多彩な創作活動を展開するチームラボ。体験型ミュージアム「チームラボ ボーダレス」や「チームラボ プラネッツ」をはじめ、3月にオープンしたアートとサウナの融合施設「チームラボ リコネクト」も話題を呼んでいる。境界を超えたデジタル・コミュニケーションを得意とする彼らの建築チームが新たなプロジェクトとして手がけたのは、なんと保育園。「情報社会に向けた子どものための空間」をコンセプトに2021年4月、千葉県流山市に「キッズラボ南流山園」を開設した。チームラボアーキテクツがつくる保育園とは、いったいどんなところなのか? 設計を担当したチームラボアーキテクツの代表・河田将吾に、真新しい園舎を案内してもらった。
迎えに来た保護者が、砂場で一日の成果を確認。
つくばエクスプレスの南流山駅を最寄りとする新興住宅地に開園した「キッズラボ南流山園」。江戸川の河川敷にほど近く、近隣には田畑も広がる静かな環境だが、秋葉原から約20分という利便性もあり、人口流入率は全国トップクラスを誇るエリアだ。
赤い屋根と青い壁が遠くからでも目を引く、カラフルなコの字型の園舎。エントランス前のウッドデッキの内庭では、大きなふたつの砂場が園児たちを待ち構える。外の園庭ではなく、砂場を建物の中央玄関に据えたのがポイントであると、河田は説明する。
「砂場は子どもが一日かけて遊ぶところ。誰かがなにかをつくり、そこにまた誰かが手を加える。夕方お迎えに来た保護者がここを通り、一日遊んだ痕跡や共創の成果を見られたらいいなと思ったんです」
上を見ると、吹き抜けにはアスレチックネットが張られ、2階で馳け回る子と1階の砂場で遊ぶ子が、立体的かつ緩やかに互いの存在を確認し合う。
「子どもは月齢によって遊び方に差があります。小さな子が大きな子の遊びを見たり、参加したければ加われるよう、心理的な境界を生まれにくくする工夫が必要。ほかの子の行動を見ることも学びにつながるので、まっすぐな壁で室内と内庭と外庭を分断するのではなく、縦の空間も含めて流れの中で一体化したいと考えました」
情報社会で必要なのは、「身体性」を育むこと。
インタラクティブなメディアアートをヒットさせるチームラボだが、この保育園にはデジタル・サイネージも音と映像によるアクティビティも一切ない。それでも、彼らが考える情報社会に必要な空間のあり方が、どこよりも表現されていると河田は言う。
「情報社会で大事なのは身体性。僕らがいままでつくってきたアート施設も、デジタルありきでなにかを見せるというより、そこで身体を使わせたいと目論んでいます。プラネッツやボーダレスは非日常的空間だけど、ここではもっと子どもたちの日常として、身体性を発揮させたい」
身体性とは、空間認識能力のこと。四角いビルと道路で構成された現代の都市型社会にスポイルされ、人間は視覚で予測する以外の空間認識能力を失いつつあるという。子どもがその力を自ら養えるよう、部屋のかたちをパズルのようにランダムに配置し、廊下はその間をあいまいにつなげる存在に。出窓や天窓の奥行きには変化をつけ、砂場や内庭をいびつな多角形とした。
「丸だと中心ができてしまうし、四角いと4つの等しい角が発生する。多角形なら、端っこでも真ん中でも、みんながそれぞれの場所で好きな遊びをしていられます。一緒にいながら別々のことに打ち込み、さらにそれらがなんとなく協働していく。多様性を理解しつつ、人と協働・共創するのって気持ちいいということを、言葉ではなく空間の中で“勝手に”学ばせたいんです」
これからは、教育と都市がセットで発展していく。
空間は身体を進化させるひとつの道具であり、教育もそれに合わせて変わるべきだと河田は言う。
「いろんな国でプロジェクトを手がけていますが、世界中の都市がいま、教育に強い関心を抱いています。なぜなら、情報社会において優秀な人は世界のどこででも働けるから。自分の子がどういう教育を受けられるかで、都市は選ばれる。これからはますます、都市と教育がセットになって発展するでしょう」
共創と多様性、そして身体性。人間ならではのリアルなコミュニケーションこそ、デジタル・テクノロジスト集団チームラボが掲げる未来への教育目標なのだ。