隠れた人気アーティストが放つ、日本を舞台に編んだ意欲作『プレイ.メイク.ビリーブ.』。

  • 文:栗本斉
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シカゴ生まれのシンガー、ラッパーであるブランダン・デシャイ。シザやマック・ミラーなどのプロデュース、楽曲提供を手がける一方、エース橋本の名義でKOJOEや5lackなどともコラボし、日本のヒップホップ・シーンでも活躍してきた。

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オルタナティブ・ヒップホップの雄、タイラー・ザ・クリエイターが2019年に発表した傑作『イゴール』はとても衝撃的だった。なぜなら山下達郎の楽曲がサンプリングされていたからだ。全米1位となりグラミー賞まで獲得した作品が、多少なりとも日本の音楽と関連していることに、音楽ファンならちょっとした興奮を覚えてしまったのではないだろうか。

タイラーはオッド・フューチャーというヒップホップ・クルーを率いているのだが、そのクルーに以前在籍していたブランダン・デシャイが、なんとエース橋本という日本名でアルバムをリリースし、さらなる衝撃を与えてくれた。彼はマック・ミラーやチャンス・ザ・ラッパーとのコラボレーションも行っている実力派であるが、あまりにも日本が好きで一時期は移住していたそうだ。日本のヒップホップ・シーンと交流するだけでなく、EXILEなどにも楽曲提供しており、メジャーからアンダーグラウンドまで幅広く顔が利くというのも面白い。

エース橋本名義での初アルバム『プレイ˙メイク˙ビリーブ˙』はユニークな作品だ。ここではフランク・オーシャンを思わせるメロウかつオルタナティブなR&Bやヒップホップを展開している。基本的に英語でライムを繰り出しているが、ところどころに「エース橋本です」という女性による日本語のナレーションが挿入され、東京でフィールドレコーディングしたと思われる駅のチャイムなども加わり、不思議な音空間を生み出している。向井太一やケロ・ワン、そして同じく日本滞在経験があるデヴィン・モリソンなどゲストの顔ぶれもひねりがあるし、コンセプト・アルバムとしてもしっかり成立している。世界的な実力あるアーティストが、日本を舞台にここまで聴き応えのある作品をつくったことに、驚きと喜びを感じたい。

エース橋本 PCD-22422 Pヴァイン ¥2,420 4/28発売(税込)