三方を山に囲まれ、南に仙北平野に向かって開けた秋田県・角館は、黒板塀で覆われる通りに沿って重厚な武家屋敷が立ち並ぶ城下町。藩政期と変わらぬ街並みがそのまま残ることから「みちのくの小京都」とも呼ばれ、街はいまでも武家屋敷が並ぶ「内町」と、かつて町人たちが暮らしていた「外町(とまち)」に大きく分かれる。昔ながらの街には蔵も多く残され、地元の調査団体によると100棟前後の蔵が点在するという。そんな角館の歴史ある3つの蔵を改装したホテルが「和のゐ 角館」だ。
築100年超の蔵を起点に、城下町の文化を体感する。
秋田新幹線の停車駅で、東北の駅百選にも認定された風情漂う角館。和のゐへは、改札を出て隣接するホテルフォルクローロ角館でチェックインを済ませると、目的の蔵まで送迎してもらえる。3つの蔵は「西宮家 武士蔵」「西宮家 ガッコ蔵」「反物蔵」と名付けられ、築100年を超える蔵が歩んできた物語を残し、宿として生まれ変わった。「営みが保存された蔵」をコンセプトに、当時の暮らしを体感できる。
たとえば武士蔵は、佐竹氏の家臣だった西宮家の敷地内にある蔵を大胆にリノベーションしたもの。西宮家の先祖が高名な武士であったことから、鎧兜や陣幕などが飾られ、下級武士の手内職から発展した伝統工芸の樺細工(かばざいく)に関する展示スペースも設けられている。ガッコ蔵も同じく西宮家の敷地内にあり、秋田弁で漬物を意味する「ガッコ」の名の通り、秋田の発酵文化を感じさせる仕掛けが随所に配された。一方、反物蔵はもともと反物屋だったという江戸時代末期の蔵を改装したもの。さながら、それぞれの蔵自体がちょっとしたミュージアムのようだ。
土間から重厚な扉を抜けて足を一歩踏み入れると、木と漆喰による懐かしい香りに包まれる。柱や梁、天井、蔵扉などは100年以上前の建築当時のまま。一方、風呂や洗面スペースなどは新たに増設されているので、ホテルとしての居心地も申し分ない。
和のゐでは「蔵のある町自体も体感してほしい」との思いから、夕食は街の飲食店を案内している。徒歩圏内には料亭や居酒屋とともに、ホテルの朝食用の味噌を提供する1853年創業の「安藤醸造本店」や、樺細工の工芸品を手がける「藤木伝四郎商店」などが点在し、街歩きも楽しい。春にはしだれ桜が咲き誇り、秋には紅葉が美しく彩るのも見ものだ。蔵に戻り、それぞれに趣向を凝らした風呂に浸かったら、囲炉裏端に座って1689年創業の「鈴木酒造店」が特別につくった日本酒をぐびりといきたい。和のゐは、蔵というフィルターを通して、角館に流れる物語をそっと語りかけてくれる宿なのだ。
※Pen2021年2/15号「物語のあるホテルへ。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、掲載している内容から変更になる場合があります。
和のゐ 角館
西宮家 武士蔵・ガッコ蔵:秋田県仙北市角館町田町上丁11-1、反物蔵:秋田県仙北市角館町横町15
TEL:0187-53-2774
全3室 西宮家 武士蔵¥33,000(税込、朝食付)~、西宮家 ガッコ蔵¥31,000(税込、朝食付)~、反物蔵¥34,000(税込、朝食付)~
アクセス:武士蔵・ガッコ蔵はJR角館駅から徒歩約9分、反物蔵は徒歩約13分、無料送迎有
https://familio-folkloro.com