【プロが薦めるいま読むべき3冊】宇宙機エンジニア・野田篤司が選んだ〈宇宙開発〉の本

  • 写真:岡村昌宏(crossover) 文:Pen編集部
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左:『宇宙へ行きたくて 液体燃料ロケットをDIYしてみた』あさりよしとお 著 学研教育出版 2013年 ¥1,430 ロケットの開発、製造、打ち上げを事業化する会社「なつのロケット団(インターステラテクノロジズの母体)」の活動を追ったノンフィクション。野田もこの事業に参加。
中:『マッカンドルー航宙記』チャールズ・シェフィールド 著 酒井昭伸 訳 東京創元社 1991年 ¥990 NASAに相当する機関に属しながら、他人を寄せ付けない変わり者の科学者。画期的な航行システムを独自に考案し、自ら開発したロケットで宇宙へ旅立つ。原著は1983年に発表され、SFの名著として知られる。
右:『青い海の宇宙港 秋冬篇』川端裕人 著 早川書房 2019年 ¥902 小学生4人が、宇宙探査機をつくり上げ飛ばすまでを描いた物語。専門家の力を借りつつも、子どもたちの自由な発想で高性能のロケットをつくり上げるさまがリアルに描かれる。春夏篇と秋冬篇の2冊がある。

2020年5月、スペースXが民間で初めて国際宇宙ステーションへの有人飛行を実現させるなど、宇宙開発が国家プロジェクトから民間のビジネスに移行しつつある。そんな状況を踏まえ、宇宙機エンジニアの野田篤司に、宇宙開発の未来を占う書を選んでもらった。

野田がまず挙げたのは、『マッカンドルー航宙記』だ。ソ連が崩壊し、国家間による宇宙開発競争が終ろうとしている時期に読んだという。

「この本が他のSFと一線を画すポイントは、あくまで純粋に宇宙旅行に的を絞って描いているところです。たいていは、宇宙人が出てきて人間を襲うようなホラー的側面が強い。でも、この作品では変わり者の研究者がいかに性能のいい宇宙船をつくり上げ飛ばすかを描いています。それも国家的な組織による開発でなく、個人の活動として。この小説が、未来の宇宙開発のあり方を暗示しているように感じました」

小学生4人が、宇宙探査機のロケットをつくり飛ばすまでの過程を描いた『青い海の宇宙港』も、個人による宇宙開発の可能性を描いた作品だ。

「自分たちでロケットをつくるという物語の小説や漫画はいろいろあるんですが、これは科学考証も十分になされていて非常にリアルです。実は小学生レベルの知識でも、工夫次第ではロケット開発も可能かもしれないことを示してくれる、夢のある物語なんです」

宇宙開発といえばいまはビジネスの側面が目立つが、将来は個人の好奇心が原動力となり、宇宙開発の“民主化”がより進むのではと野田は予測する。

「最後に挙げた『液体燃料ロケットをDIYしてみた』は、いまお話ししたことの現実版。堀江貴文さんも参加する宇宙開発会社の活動を追ったドキュメントで、ホームセンターやネット通販で部品を買ってきたり、町工場で部品を加工してもらったりしながらロケットを開発します。7年前に書かれた本ですが、やっと去年、実際にそのロケットが宇宙に到達しました」

かつて一部の人しか使えなかったコンピューターも、いまや誰もが持つ時代。同じように宇宙開発にも、やがては多くの人が参加できるようになるかもしれない。この3冊は、そんな未来を期待させてくれる。


Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。

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野田篤司●1960年、愛媛県生まれ。早稲田大学大学院理工学部電気工学修了。85年、宇宙開発事業団入社。JAXAの筑波宇宙センターにて、人工衛星やロボットなど、宇宙開発事業に従事する。

Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。