2020年5月、スペースXが民間で初めて国際宇宙ステーションへの有人飛行を実現させるなど、宇宙開発が国家プロジェクトから民間のビジネスに移行しつつある。そんな状況を踏まえ、宇宙機エンジニアの野田篤司に、宇宙開発の未来を占う書を選んでもらった。
野田がまず挙げたのは、『マッカンドルー航宙記』だ。ソ連が崩壊し、国家間による宇宙開発競争が終ろうとしている時期に読んだという。
「この本が他のSFと一線を画すポイントは、あくまで純粋に宇宙旅行に的を絞って描いているところです。たいていは、宇宙人が出てきて人間を襲うようなホラー的側面が強い。でも、この作品では変わり者の研究者がいかに性能のいい宇宙船をつくり上げ飛ばすかを描いています。それも国家的な組織による開発でなく、個人の活動として。この小説が、未来の宇宙開発のあり方を暗示しているように感じました」
小学生4人が、宇宙探査機のロケットをつくり飛ばすまでの過程を描いた『青い海の宇宙港』も、個人による宇宙開発の可能性を描いた作品だ。
「自分たちでロケットをつくるという物語の小説や漫画はいろいろあるんですが、これは科学考証も十分になされていて非常にリアルです。実は小学生レベルの知識でも、工夫次第ではロケット開発も可能かもしれないことを示してくれる、夢のある物語なんです」
宇宙開発といえばいまはビジネスの側面が目立つが、将来は個人の好奇心が原動力となり、宇宙開発の“民主化”がより進むのではと野田は予測する。
「最後に挙げた『液体燃料ロケットをDIYしてみた』は、いまお話ししたことの現実版。堀江貴文さんも参加する宇宙開発会社の活動を追ったドキュメントで、ホームセンターやネット通販で部品を買ってきたり、町工場で部品を加工してもらったりしながらロケットを開発します。7年前に書かれた本ですが、やっと去年、実際にそのロケットが宇宙に到達しました」
かつて一部の人しか使えなかったコンピューターも、いまや誰もが持つ時代。同じように宇宙開発にも、やがては多くの人が参加できるようになるかもしれない。この3冊は、そんな未来を期待させてくれる。
※Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
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※Pen2020年11/1号「心に響く本」特集よりPen編集部が再編集した記事です。