今年の賞レースで脚光を浴び、アカデミー賞でも“第2の『パラサイト 半地下の家族』”になるかと期待されている『ミナリ』が、本日より公開される。
『ミナリ』の製作と配給を行うのは、近年オスカーの常連となった「A24」。本記事では、いま最注目の映画スタジオ「A24」のマイルストーンとなった作品たちを振り返る。
その後へ続く青春映画のはじまり。『ブリングリング』(2013年)
刺激的なインディペンデント映画を生み出すスタジオとして、日本でもお馴染みとなった「A24」が設立されたのは2012年。翌年にはソフィア・コッポラが監督を務め、エマ・ワトソン出演の『ブリングリング』などが公開された。この作品のベースになっているのは、ハリウッドのセレブリティたちの豪邸に侵入し、空き巣強盗を繰り返したティーンたちの実話。
少女たちのきらめきと痛みを見つめてきたソフィアが、やがて後戻りできなくなった彼女たちの虚しさをフランク・オーシャンの「スーパー・リッチ・キッズ」などに重ね合わせて描いた。「A24」は以降、『レディ・バード』『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』『Mid90s ミッドナインティーズ』など数々の青春映画の名作を世に送り出している。
大きな飛躍のきっかけに。『ルーム』(2015年)
ある男によって小さな部屋に監禁されたママと、ここで生まれた5歳のジャック。ふたりは命がけの脱出に成功する。ジャックは新しい一歩を踏み出すが、ママは幸せなはずの環境に折り合いがつかなくなっていく……。過酷な環境から幕を開け、はじめて“世界”に触れた時の戸惑いと感動を描き出すヒューマンドラマ。2015年に公開された『ルーム』はアカデミー賞の前哨戦ともいわれるトロント映画祭観客賞受賞を皮切りに賞レースを席巻。
オスカーでも作品賞など4部門で候補となり、当時はまだそれほど有名ではなかったブリー・ラーソンが主演女優賞を受賞して、一躍スターの階段を駆け上がった。この年には『エクス・マキナ』が視覚効果賞も受賞し、「A24」の名前が広く知られることになった。
ついにアカデミー賞作品賞を獲得。『ムーンライト』(2016年)
主人公はマイアミで麻薬中毒者の母親に育てられている内気な男の子、シャロン。子ども時代、少年時代、大人になってからのシャロンを3人の俳優が演じ、ありのままの自分を受け入れるまでの心の旅を3つの詩を静かに並べるように描き出す。
本作が長編2作目となるバリー・ジェンキンス監督にチャンスを与えるためにタッグを組んだのは、「A24」とブラッド・ピットが設立した「PLAN B」。『ムーンライト』がアカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞したことにより、作家性を尊重するスタジオであることがさらに印象付けられた。マイノリティであるゲイの黒人男性を主人公に、普遍的な愛を描く低予算映画に光が当てられたことは、歴史的な出来事といえる。
鬼才アリ・アスターの長編デビュー作。『ヘレディタリー/継承』(2018年)
『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のヨルゴス・ランティモスなど、若き鬼才を発掘してきた「A24」。『ヘレディタリー/継承』のアリ・アスターもそのひとりだ。家長である祖母が亡くなり、娘のエレンは夫と子どもたちとともに葬儀を終えるが、奇妙な現象が一家を襲うーー。
トニ・コレットが主演を務めたこの作品は、ひとつの家族の宿命をめぐる物語。映像、音、演出、すべてにおいて完璧に計算された不穏でショッキングな描写の数々で観る者を恐怖で震え上がらせ、アリ・アスターは一気にモダンホラー映画の旗手に。長編第2作となる北欧を舞台にした『ミッドサマー』もヒットを記録し、次回作が待ち望まれる監督となった。
今年のアカデミー賞を席巻。『ミナリ』(2021年)
昨年公開されたのは、中国生まれアメリカ育ちのルル・ワン監督が実体験をもとにした『フェアウェル』。そして今年は「PLAN B」とタッグを組んだ韓国人移民の物語『ミナリ』が数々の映画賞に輝き、昨年の『パラサイト 半地下の家族』に続くのではと話題を集めている。
韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョン監督が、自身の両親の経験を映画化。農業で成功する夢を抱きながらやせた土地を耕す苦しい生活の中で、衝突しながらもなんとか前を向いていく一家の物語を描いた。家族を手助けするために韓国からアメリカへとやってきて、型破りではあるが孫たちに無償の愛を注ぐ祖母を演じた韓国の名女優、ユン・ヨジョンはアカデミー賞助演女優賞の最有力だ。
『ミナリ 』
監督/リー・アイザック・チョン
出演/スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ
2020年 アメリカ映画 1時間56分
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。
https://gaga.ne.jp/minari/