【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
母親と生き別れになっていた青年は、18歳になった時、懸命に母を探したが見つからなかった。ところが4年後、勤務先でふと母の名前を口にしたところ、同じ職場で働いていることがわかる。それはただの偶然なのか、それとも勤勉な青年に、神様が特別なご褒美を与えたと解釈するのか。
統計学者の著者は本書で、自ら数字を選択して購入した宝くじが当たった女性や、7回も雷に打たれた男性、フットボールで初試合なのに大活躍してしまった選手などの事例を膨大に集め、統計データを用いて、幸運や不運は偶然起こることを証明。統計学の基本的な考え方を紹介していく。
自ら数字を選択して宝くじが当たった女性は「当選方法を見つけた」と主張するが、著者は、いままで彼女が何度も宝くじを購入していたことから、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」のだと推測。さらにその当たったくじの当選倍率が1000分の1で、他のくじよりも当選確率が高かったことも指摘する。そもそも当選番号は毎回ランダムに選ばれるのだから、結果を予測することは不可能なはずだ。
しかし、ただの偶然だという結論は、どれだけ明快に理論づけられようとも、宝くじ愛好家の心に刺さらない。「当選方法を見つけた」という体験談のほうが、人の心を躍らせる。我々人間はどうしても、出来事になんらかの意味を見出そうとしてしまうのだ。
とはいえ本書を読めば、世の中で起きていることのほとんどが、偶然に左右されていることがよくわかる。
幸運を唯一、自分で引き寄せる方法があるとしたら、確率を考慮することだ。なにが運を決めるのかを見極めて、少しでも確率の高い方法を取る。宝くじに当選する確率を上げるには、当選倍率がより高いものを買うしかない。“偶然”が起こる仕組みを、見事に可視化した一冊だ。
日本で最も恐れられる、「文春砲」が生まれた舞台裏『2016年の週刊文春』。