大滝詠一の流れを汲む日本の若い世代の音楽はシティポップと呼ばれ、いまや国境を越えて支持されている。ブームの中心にいるナイト・テンポと原田夏樹に、その影響力について訊いた。
幼い頃になにげなく耳にした音楽のひとつに日本の1980年代ポップスがあり、自然にその世界の虜になってしまったというナイト・テンポ。
「この時代の音楽は、人々の暮らしが豊かだった雰囲気が伝わってくるというか、ロマンティックな風景が見えてくるんですよね。現代では、限られた空間で限られた人のためにつくられている楽曲が多い印象がします。けれど、あの頃の音楽はみんなで楽しめる雰囲気がある。それにも心を奪われてしまいます」
大滝サウンドも、80年代の音楽を追求していく中で、魅力を知るようになったと語る。
「松田聖子さんをはじめとした提供曲をきっかけに僕は知ったのですが、炭酸水のようなシュワっとした印象のサウンドが魅力的ですよね」
濃密な大滝サウンドは、 時代も国境も飛び超える。
また、大滝が生み出す濃密なサウンドは、海外でも評価が高いと話す。
「あの当時の音楽は、隙間があればコーラスや楽器などを入れる傾向にある。その感覚って、現代の人の『面白いものがあればジャンルにこだわらず取り入れる』ハイブリッドなスタイルに共通している部分だと思う。だから、時代を超えて世界的に共感されているのかなって」
最近は、杏里やWink、松原みきなどシティポップの源流を形成した楽曲をリ・エディットした「ザ・昭和グルーヴ」というプロジェクトが話題のナイト・テンポ。当時の輝きに、洗練されたエレクトロニックなビートなどモダンな感覚を加えて、幅広い世代から熱狂を呼んでいる。
「僕は別にシティポップとか、ジャンルを気にして選曲をしているつもりはないんです。子どものような感覚で、純粋にいいと思った音楽を紹介しているだけ。それがたまたま80年代の日本のポップスに集中していたのです」
最近は、過去の楽曲のリ・エディットだけでなく、オリジナル作品も精力的にリリースしている。
「シティポップというジャンルを気にせずに、80年代の豊かな音楽を追求していけたら。なぜなら、あの時代は素晴らしい音楽にあふれているので。そこにいまっぽいエッセンスを加えて、自分にしかできない音楽を追求していけたらと思います」
※こちらはPen 2021年4月1日号「大滝詠一に恋をして。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。