【Penが選んだ、今月の観るべき1本】
カエルのペペ。アーティスト、マット・フューリーが自分を投影したキャラとして生み出したカエルで、本作はぺぺを巡るドキュメンタリー映画だ。マットのコミック『ボーイズ・クラブ』では若者の他愛の無い日常が描かれる。その中でペペは弟分としていじられながら、楽しく暮らしている。ズボンを足元まで下ろして小便をして、「feels good man」と言う。「いい感じじゃん」といったニュアンスの言葉で、軽妙で、いろんな場面で使える。『ボーイズ・クラブ』における日常はゆるゆるのローファイ・ロックが似合う世界で、微笑ましく「いい感じ」なのだ。
この「いい感じ」がネットの世界に転写されるとすぐさまミームと化した。ぺぺのイメージはさまざまな環境に適合した「いい感じ」として、ネット上で拡散されて行く。作家のマットはこれを「いい感じ」じゃん、と放っておいた。ペペが拡散した先の環境に4 chがある。日本の2ちゃんねるから着想を得たこの匿名掲示板の住民たちは、表の世界では言えないような感情や思想、発想や冗談を吐き出していた。ペペはこの環境に適応し、そこで発散されるさまざまな感情を表すカエルへと“進化”してしまう。
作者マットの存在は忘れ去られ、ぺぺは次々とネットの感情と結合していく。ネットの感情には可愛いものもあるが、悪意、呪詛、ヘイトはもっとあふれている。過激化を重ねながらネット上でドナルド・トランプとも合体したペペを、トランプ本人がツイッターでRTしたことで、ペペはネットと現実をつなぐカエルへと“進化”。白人至上主義者や極右団体の蠢く環境に適応し、ついにはヒラリーの演説中にぴょんと飛び出す。劇中で変化していくマットの表情と佇まいに注目。彼は「いい感じ」を取り戻せるのか?
『フィールズ・グッド・マン』
監督/アーサー・ジョーンズ
出演/マット・フューリー、ジョン・マイケル・グリアほか
2020年 アメリカ映画 1時間34分 3月12日よりユーロスペースほかにて公開。
https://feelsgoodmanfilm.jp/