昨今、女性監督の活躍が目覚ましい韓国映画界。昨年、数々の国際映画祭を席巻し日本でもロングランヒットを記録した『はちどり』はまだ記憶に新しい。本日より公開の映画『夏時間』を含め、いま覚えておきたい韓国人女性監督の作品を5本紹介する。
①『チャンシルさんには福が多いね』(キム・チョヒ監督)
映画プロデューサーのチャンシルは、ともに仕事をしてきた監督が急逝したことで仕事を失ってしまう。映画ひとすじで生きてきた彼女にはパートナーも家も子供もないが、年下男性との思いがけない出会いが訪れて……。
恋愛映画の名手、ホン・サンス監督のプロデューサーとして活躍してきたキム・チョヒ監督の長編監督デビュー作。小津安二郎とアキ・カウリスマキを敬愛していると語り、劇中にはレスリー・チャンへの愛情を感じるシーンも。映画業界の裏側を描く作品であり、アラフォー女性の再生を軽やかなユーモアで描き出したヒューマンドラマ。
②『はちどり』(キム・ボラ監督)
1994年のソウル、両親と兄姉と集合団地で暮らす14歳のウニ。家庭にも学校にも自分の居場所を見つけられずにいる彼女は、漢文塾の女性教師に心の内側を見せていくようになる。コロンビア大学院で映画を学んだ81年生まれのキム・ボラ監督が、自身の少女時代を反映させて完成させた作品。
ベルリン国際映画祭で注目を集め、韓国青龍賞ではポン・ジュノをおさえて最優秀脚本賞を受賞した。いまよりもさらに家父長制や学歴至上主義がはびこる時代を背景に、女子中学生の日常生活を通して、揺れ動く内面と社会の両方を描き出した青春映画の傑作。4月28日にDVD&ブルーレイ発売予定。
③『詩人の恋』(キム・ヤンヒ)
済州島に住む売れない詩人のテッキ。妊活をはじめたしっかり者の妻との温度差を感じるなか、彼が惹かれたのはドーナツ屋で働く美青年だった。いくつになっても夢見がちな中年男とリアリストの妻、孤独な青年の奇妙な三角関係を描き、幸せの形を問いかけるラブストーリー。
監督、脚本を手がけてリゾート地、済州島の日常の風景を切り取ったのは、2007年の短編『One Day To Be Passing By』で釜山国際短編映画祭最優秀監督賞を受賞したキム・ヤンヒ。『息もできない』などで知られるヤン・イクチュンが主演の『詩人の恋』で、ついに長編監督デビューを果たした。
④『82年生まれ、キム・ジヨン』(キム・ドヨン監督)
2歳の娘の育児や家事に忙しい日々を送りながら、ときどき他人が乗り移ったような言動をするキム・ジヨン。妻にそのことを告げられない夫は、精神科医の元を訪ねる。男女間の格差ゆえに生きづらさを感じてきたひとりの女性の人生を、カルテのように綴った『82年生まれ、キム・ジヨン』。
韓国で社会現象となり、日本でも多くの女性の心を動かしたベストセラーを映画化したのは、短編『自由演技』(原題)が高い評価を得たキム・ドヨン監督。40代になってから映画学校に通いはじめたという監督が、チョン・ユミ、コン・ユら人気俳優を迎え、国と世代を超えて女性たちの共感を呼んだ“私たちの物語”を描き出した。4月2日にDVD&ブルーレイ発売予定。
⑤『夏時間』(ユン・ダンビ)
新たな才能の登場と話題になった『はちどり』に続く傑作と話題を呼び、ロッテルダム映画祭、釜山映画祭などで賞に輝いた『夏時間』。10代の少女のまなざしや心の震えに寄り添うような描写に、両作の共通点が感じられる。主人公は、夏休みのある日、父親と弟ともに祖父の家に引っ越したオクジュ。そこには母の姿はなく、父は事業に失敗したらしい。庭のある大きな家に離婚寸前の叔母もやって来て、三世代の新しい生活がはじまる。
監督、脚本は1990年生まれのユン・ダンビ。自身の実体験ではないが、情緒や感情に基づく経験の一部分をシナリオに反映させたのだという。もうひとりの主人公ともいえるのが、どこか懐かしさを感じさせる一軒家。監督はひとりの少女が大人になるための通過儀礼をドラマチックに描き出すのではなく、この家での時間の流れを静かに描き出すことで、忘れがたい“ひと夏の物語”をスクリーンに刻み込んだ。
家族の問題から自分を守るように寝室に蚊帳を吊って聖域をつくり、まだ無邪気な弟に苛立ちを感じ、容姿や恋に悩んだりもする。ままならない“あの頃”の感覚が胸をぎゅっと締め付ける、普遍的な痛みときらめきに満ちた青春映画だ。
『夏時間』
監督/ユン・ダンビ
出演/オクジュ:チェ・ジョンウン、ドンジュ:パク・スンジュン
2019年 韓国映画 1時間45分
2月27日(土)よりユーロスペースほかにて公開。
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