2021年1月28日、那覇市久茂地の琉球料理「美榮(みえ)」において、琉球王国から続く沖縄の伝統料理と、気鋭の醸造家がつくる北海道のナチュラルワインを結びつける、興味深いこころみが行われた。
これは経済産業省の支援のもと、沖縄と北海道の共通点を通してそれぞれの魅力を発見し、広く伝えることを目的とする「Exchange Japanプログラム」の一環として行われたもの。
当初の予定では、北海道から3人のワイン醸造家を招き、沖縄の伝統的食文化と北海道のナチュラルワインとのマリアージュを体験し、文化的な可能性や今後の発展について対談や意見交換が行われることになっていた。残念ながら新型コロナウイルス感染予防のために醸造家の参加は見送られたが、関係者たちの尽力により、沖縄と北海道が誇る料理とワインが出合う貴重な機会はかわることなく実現された。
琉球料理「美榮」は、琉球王国時代より伝わる料理が味わえる老舗の料理店。古から伝わる調理法を用い再現した、琉球料理の集大成ともいえるその料理は、繊細であり、下ごしらえに多大な手間と労力をかけたものばかり。また、琉球漆器や壺屋焼、染織品、民具や絵画など、歴代の店主が収集してきた器や工芸品が料理に花を添える。
創業者の古波藏登美(こはぐら・とみ)は、首里士族で伝承された料理上手な母親の元で育ち、美榮を経営しつつ、琉球料理研究会に所属し、琉球料理の研究を続けてきた方。兄の二代目店主・古波藏保好(こはぐら・ほこう)亡き後、義娘の古波藏德子(こはぐら・のりこ)が現在三代目として、その歴史と伝統を受け継いでいる。
美榮の琉球料理との出合いのために北海道から運ばれたのは、世界のワイン通を唸らせている余市町ドメーヌタカヒコの曽我貴彦、モンガク谷ワイナリーの木原茂明、ドメーヌ モンの山中敦生という3人の醸造家が造るナチュラルワイン。
日本の風土や食文化により育まれた、日本人としておいしいと感じられるワイン造りを目指すドメーヌタカヒコからは「ナナ・ツ・モリ ピノ ノワール 2018」と「ヨイチ・ノボリ パストゥグラン(アイハラ)2018」。曽我貴彦の元で学び、2016年に独立を果たした山中敦生のドメーヌ モンからは「Dom gris 2018」を。多品種のブドウによる混植・混醸ワインに挑む木原茂明のモンガク谷ワイナリーからは「モンガク谷 2019 杤」がセレクトされた。
琉球料理の新たな魅力を引きだす、北海道ワインの魅力。
メニューは二ガナの豆腐白和え「ンジャナバースーネー」と、豆腐を麹に漬けこんで発酵させた「豆腐よう」の前菜から始まった。沖縄で活躍するJSA認定シニアソムリエの前森裕人の見立てにより、1品1品試しながらペアリングし、相性を探っていった。
「豆腐ようの発酵感と、ドメーヌ モンのピノ・グリ種を使用したDom gris 2018が、ものすごくぴったりで、いきなり最初から驚きました。通常豆腐ようは紅麹で仕込みますが、美榮で提供されている豆腐ようは白麹が使われ、やわらかく、繊細で、やさしい味わい。それがオレンジワインによく合っていました。ンジャナバースーネーの苦みには、モンガク谷の白ワインがよかったです」
豚の腸をていねいに下ごしらえし吸いものにした「なかみの吸いもの」。芋くず粉と蒸かしたサツマイモをこねて揚げた「芋くずあんだぎい」。豚肉を黒ごまのペーストに漬けこんで蒸した「みぬだる」に「田芋から揚げ」。琉球料理は下ごしらえにとにかく時間と手間をかけるのが特徴という、古波藏德子の話を聞きながら、ゆったりした時間とともに食事は続いていく。
「タカヒコさんのワインは自然のままにと表現されていますが、まさにお芋のように土の中で育つ食材によく合うと思います。芋くずあんだぎいのお芋の甘みと苦みみたいなものが、ピノ・ノワールの持つフルーティさ、心地よい苦みと共存しています」
「田芋もやっぱり土の中のもの、ピノ・ノワールがよく合います。砂糖醤油の甘みと風味に、タカヒコさんの出汁っぽいワインがマッチして、最後にピッと合う。黒ごまが香ばしいみぬだるには、70%のピノに30%のツヴァイゲルトが入ってスパイシーさが加わったパストゥグランがぴったりだと思います」
ワインの販売とワインイベントの企画を行う wine&interior CLASSICO ほか、日本ワインを楽しむワインバー「グラスワイン 桜坂 ル・ボア」を営む、JSAシニアソムリエの前森裕人は、「琉球料理のために造られたワインのようにどれも相性がよく、今までに感じたことがない琉球料理の新しい魅力を引き出してくれる」と、今回のペアリングの新しい発見に喜んでいた。
「らふてえ」は豚の三枚肉を大きめに切って、醤油、泡盛、ザラメで半日以上気長に煮込んだもの。皮までやわらかくなったその味は、琉球料理を代表する逸品として人気の一皿。それに前森はドメーヌ・モンのピノ・グリを合わせる。
「らふてえの脂身や泡盛、ザラメの香りや甘みが、オレンジワインの深い甘みに驚くほどぴったりでした」
「『耳皮さしみ』は、モンガク谷ワイナリーの『モンガク谷2019杤』と相性がぴったりです。熟れた林檎のような果実味と爽やかでやわらかい酸味。優しく感じるのですが実は複雑味がある味わいは、ミミガー(豚の耳皮)のコリっとした触感、落花生を軽く焙煎した香ばしさ、きゅうりとピーナツ酢で和えた味わいによく合っています」
さらに料理は締めの「豚飯」(とんふあん)へとつづき、デザートの「鶏卵糕」(ちいるんこう)、「花ぼうる」で終わった。
「各ワイナリーのワインが、旨味があり深みがあり、いい意味で土や森を感じるような落ち着いた味わいでした。そこにしっかりした出汁や、時間や手間をかけた深い味わいが合わさる。その旨味や深み、熟成、発酵といった時間をかけて生まれてくるもの。それが今回の北海道ワインと琉球料理との共通点なのかもしれない」
マッチングのおもしろさを感じた、と前森は話す。
美榮の料理は、まさにここでしか味わえない料理。沖縄の気候や風土、食事を頂く空間すべてが味に影響する。歴史的な背景や伝統を知り頂くことで、より味わい深くなるはずだ。
江戸時代から明治時代にかけての18〜19世紀頃、北海道で採れる「昆布」が大阪、鹿児島を経て琉球へと運ばれて沖縄の食文化に影響を与えていたという。そしていま再び、北海道と沖縄はワインによって新たな繋がりが生まれることとなった。
今回のこころみのなか、土地それぞれの魅力と同時に、二つの地を結ぶ共通の景色が見えた気がする。日本の地方がつながるために、東京というハブはもういらないのかもしれない。地方と地方の食文化が結びつく新しいカタチ。そこにある新しい出会いや発見を楽しみたい。
琉球料理 美榮
沖縄県那覇市久茂地1丁目8-8
TEL:098-867-1356
営業時間:昼の部/11時30分〜15時 夜の部/18時〜22時
定休日:日曜、年始、旧盆(ほかに不定休日あり)
http://ryukyu-mie.com/