もうシュウマイしか勝たん! 目利きが選んだ「鉄板の名店5選」。

  • 写真:長谷川 潤
  • 文:岡野孝次 
Share:

餃子と並んで、昔から日本人に愛される中華の点心といえばシュウマイだ。熱々を噛み締めるとあふれる、肉や野菜の旨味。餡を辛子醤油で味わえば、ほろりと心にしみる。実はここ数年、全国的にシュウマイの店が増えていると聞く。しかし、餃子に比べて得られる情報量が少なく、おいしいシュウマイを見つけにくいという声も。そこで今回は、シュウマイ研究家のシュウマイ潤に、これを食べれば間違いないという名店のシュウマイを5種教えてもらった。いずれも通販で購入できるものばかりだ。「ファンが多いわりに、シュウマイのおいしさを伝える機会が少なかったんです」と潤さん。シュウマイの魅力は旨味の凝縮感で、これをシンプルに堪能させてこそ名作なのだという。まだ知られていない、奥深き世界へいざ!

シュウマイ潤●シュウマイ研究家、ライター、エディター。1977年神奈川県生まれ。「シュウマイ好きになったのは、横浜・崎陽軒の影響が濃い湘南・茅ヶ崎で生まれ育ったから」。インスタグラム「焼売生活」を中心に情報を発信。2018年5月にTBS「マツコの知らない世界」に出演したのを機に、19年1月に「東京シュウマイ弁当」を監修、20年5月には東京食材活性化を目指す「メイドイン東京の会」とコラボした「東京焼売」を発売する。20年6月には日本シュウマイ協会を立ち上げた。

1.一芳亭本店「しゅうまい」――池波正太郎も絶賛! 薄焼き卵の皮に包まれた一品。

餡は豚ミンチ肉、エビ、タマネギのみじん切りを塩、コショウ、醤油などで味付けし、片栗粉でつなぐシンプルなもの。1日平均8000個を売り上げ、毎日完売する人気ぶり。店では「しゅうまい」10個にライス付きの「しゅうまい定食」¥800(税込)も提供する。

「一芳亭本店」は、大阪・難波にある1933年創業の中華料理店。こちらの名物「しゅうまい」は、食通で知られる文豪・池波正太郎も絶賛した一品で、その見た目もユニークだ。黄色い皮は、手製の薄焼き卵でつくる皮で、小麦粉が入手しづらかった昭和初期の名残りだという。

「せいろを開けたら、卵の香りが広がって、口に運ぶ前から胃袋直撃です」とシュウマイ潤さん。豚肉とエビの旨味がダブルで広がる餡は、兵庫県淡路島産のタマネギの甘味も瑞々しい。「素材の旨味が凝縮されながらも、さっぱりとしたあと味。シュウマイの素晴らしさは、食事の主役にも脇役にもなれることだと思っていて、このシュウマイは、まさしく理想です」。辛子醤油をたっぷり付ければご飯のお伴に、そのまま食べればビールやサワーのアテに最適。サイズが小ぶりなため、食卓のもう一品にも重宝する。

昔ながらの木箱の折詰に入って届く、お取り寄せ用の「しゅうまい」15個 ¥1,050(税込)/一芳亭本店 (TEL: 06-6641-8381 )

2.コロリンシュウマイ「コロリンシュウマイ」――材料はジャガイモ⁉ 群馬のソウルフード

「コロリンシュウマイ」は、つぶした男爵イモ、玉ネギ、でんぷん、豚脂を和えて丸め、ふかした一品。店頭では5個¥180(税込)から販売している。

「餡が小麦の皮で包まれている」というシュウマイの定石を軽く飛び越えてくるのが、群馬県桐生市にあるスナックスタンドの「コロリンシュウマイ」だ。継ぎ目のない外見はまるで団子のようで、タレは「付ける」のではなく、「かける」。食べてみるとモチモチとした食感で、その材料はなんとジャガイモだ。専用のタレはウスターソース。次第にタマネギと豚脂の甘味もあふれ出て、噛むたびにクセになる味わいだ。

「何十年も前から、地元では『コロリンシュウマイ』の名で親しまれてきました。『これがシュウマイなの?』と疑問に思う人がいるかもしれませんが、こんなにも長く支持されるソウルフードですから、もはやシュウマイと呼ぶしかないんです」。ほんのり甘味がある味わいには、日本酒が合うとシュウマイ潤さん。意外な提案にも思えるが、ジャガイモの風味が和酒のふくよかさと重なり、理にかなったペアリングといえる。

揚げたり、おでんの具にしたりと、いろんな楽しみ方ができる。取り寄せ用の「箱入りコロリンシュウマイ(冷蔵)」 15個 ¥700(税込)/コロリンシュウマイ (TEL: 0277-53-8617)

3.萬坊「いかしゅうまい」――玄界灘の海の幸、イカの旨味で包み込む。

佐賀県呼子の名物であるイカを、シュウマイに。産地指定の玉ネギ、純植物性原料の飼料だけで育てられた鶏の産みたて卵、海のミネラル豊富な海塩など、その他の素材にもこだわりがある。包むのではなく、皮を細かく刻んで餡の外側にまぶすため、蒸すと花が開いたような外見に。

玄界灘に面した佐賀県唐津市呼子(よぶこ)の名物といえば、新鮮なイカの活造り。そのおいしさが詰まったこのシュウマイは、30余年前、「萬坊」が営む海中レストランで誕生した。「地方の食文化を活かしたローカルな一品。海産物を使ったシュウマイとして有名です。魚肉や鶏肉などをすりつぶしてつくる練り物、真薯(しんじょう)をヒントにつくられた味わいで、 イカの旨味が上品に広がります」と潤さん。

ていねいにすりつぶされたイカは、ふっくらとしながらもプリプリの食感で、ここにタラのすり身の滋味とタマネギの甘味も加わる。付属の甘酸っぱい醤油ダレに付けると、まるで温かい「イカそうめん」を味わっているよう。「旨味の凝縮感が強いので、まさしく熟成させたイカの刺身を食べている感覚に。熱燗にも合うんです」。餡からイカの出汁がにじみ出て、杯が進むこと間違いなしだ。

吸い物の具にすると、出汁もにじみ出る。油で揚げて食べてもよし。「いかしゅうまい 大まる」8個 ¥1,296(税込)/呼子萬坊 (TEL 0120-151-248)

4.「小洞天」のポークシュウマイ――日本橋で75年以上続く、中華食堂の王道。

「ポークシュウマイ」は直径3cmほどの大ぶりサイズで、箸で持ち上げると、ずしりと重みを感じる。餡は国産豚肉と長ネギのシンプル系。長ネギの香味が食欲をそそる。店舗ではシュウマイとご飯、スープが付いた「シュウマイとご飯」¥880(税込)が人気の定食メニューだ。

「小洞天」は、1944年に東京・日本橋に開業した中華食堂。変わらぬレシピで75年以上愛されてきたポークシュウマイの魅力を端的に言うと「たっぷり」「もっちり」「みっちり」だ。「とにかく肉餡がたっぷりで、小麦の皮からはみ出るほど。最近は素材を活かすべく、あえて和えない餡が多いのですが、小洞天ではしっかり具材を混ぜ合わせ、もっちり、みっちりとした食感に仕上げています」。とにかく食べ応えのあるシュウマイは甘味もあって、ほろりと懐かしい味わいだ。

「隠し味のショウガの辛味と苦味が、適度に旨味を切ってくれる。ボリュームがあるのに何個でもいけてしまう理由です」。豚肉と玉ネギの旨味があふれる直球のおいしさは、白飯はもちろんビールの肴にも。他にも海老のすり身とむき身を6層のミルフィーユにして包んだ「えびシュウマイ」も人気の一皿だ。

「ポークシュウマイ」10個 ¥1,800(税込)。シュウマイは1個が約40gとボリュームがある/小洞天 (TEL:03-3272-1071)

5.メイドイン東京の会「東京焼売(ぎんなん)」――旨味がしっかりとした東京発ブランド豚を使用。

「東京焼売」は東京産の食材を使ったシュウマイ。使用するブランド豚「TOKYO X」は、さっぱりとした脂とほのかな甘味が特徴的で、粗挽きを餡にしている。また、写真のシンプルな王道シュウマイ以外に、東京都の木がイチョウであることから、晩秋の風味のまま冷凍保存された、青々しい香味のギンナンをトッピングしたタイプもある。

東京・青梅で生まれたブランド豚、TOKYO Xは、肉質がきめ細かいため、ふわふわとした食感の餡になる。「旨味がしっかりとした豚肉なので、なにも付けずに、このまま日本酒と合わせてみてください」とこのシュウマイを監修したシュウマイ潤さん。歯離れのいい餡からは、タマネギの濃厚な甘味もあふれる。

また、写真のシンプルなタイプ以外に、ギンナンをトッピングしたタイプも。「通常の焼売にトッピングされているグリンピースを、東京らしい食材に置き換えてみたら?」という潤さんの発想のもと、制作チームで出てきた「東京の樹=いちょう=銀杏」というアイデアで開発されたもので、ほろ苦さに甘酸っぱさも加わって、複雑味を醸した大人の味わい。ギンナンの青々しい香りが鼻を抜けていく感覚がヤミツキになる一品だ。

ギンナンなしのシュウマイもある。「東京焼売」6個×4パックセット ¥3,300(税込)/メイドイン東京の会。Web販売のみ。https://mirakuru-food.com/product/tokyo-syumai/