スティーブン・キングが「ジョン・ウー監督作とゾンビが融合されたようだ。『ウォーキング・デッド』がおとなしく見える!」と絶賛した、韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス(英題:Train to Busan)』。ソウルからプサンへ向かう高速鉄道KTXを舞台に、謎のウイルスによって爆発的に増えていくゾンビからのサバイバルを描き、世界約160カ国での大ヒットを記録した。それから4年。ヨン・サンホ監督は、ちょうどこの映画の4年後の設定で、アフター・パンデミックを描いた続編を誕生させた。それが2021年1月1日に日本公開される『新感染半島 ファイナル・ステージ(英題:Peninsula)』。ポン・ジュノ監督『パラサイト』の大ヒットも記憶に新しい中、大きな期待が寄せられた韓国映画だ。
主演はカン・ドンウォン。スマートな詐欺師から韓国現代史の重要人物まで見事にこなす演技派は、ハリウッド映画『Tsunami LA(原題)』(撮影中)の主演を務める他、21年は是枝裕和監督の初の韓国映画『ブローカー(仮)』への出演、クランクインも予定。韓国映画界を牽引する、いま最も気になるトップスターにインタビューした。
ひたすら役の心情をつくり、カメラの角度やレンズを考えながら目の演技をする。
――大ヒット作の続編です。プレッシャーはありませんでしたか?
カン・ドンウォン: 準備期間中、僕はロサンゼルスにいたのですが、ヨン・サンホ監督とリモート会議でたくさん話し合ったので自信をもって臨むことができました。『新感染 ファイナル・エクスプレス』、その前日譚の『ソウルステーション パンデミック』、これら過去2作品とはまったく違いますし、ポスト・アポカリプス(終末もの)の映画に出演してみたいと思っていたんです。いい経験になりました。
――この作品は、高いVFX技術をもつヴィヴィッド・スリー社とタッグを組んで準備に一年を費やしたと聞いています。崩壊し、一部要塞化した「半島」に圧倒されました。撮影はどうでしたか?
カン・ドンウォン: ヨン・サンホ監督はアニメーションを多く手がけられていた監督ということもあって、ビジュアライゼーションがとても速いんです。そして果敢に撮る! マンガ的な、絵になるショットをたくさん、大胆に撮るんです。
――カン・ドンウォンさんが演じた大尉ジョンソクは、ウイルスで壊滅した韓国から香港へ逃れた後、義兄チョルミン(キム・ドユン)と半島に残された大金を狙う闇の組織の仕事を請け負い封鎖された半島へ上陸。そこからさまざまなバトルがあるわけですが、ジョンソクというキャラクターの役づくりに際してどんなことを意識されましたか?
カン・ドンウォン: シナリオ、ビジョンがよかった、それが、この作品に出演する決め手になりました。僕は、まずシナリオに忠実に演じています。初稿の脚本は役の説明が断片的でしたので、肉付けしていこうと考えました。観客のみなさんがジョンソクを追って映画の世界に入っていけるように、心の変化をしっかり見せようと努力しました。
――たくさんのアクションを演じてこられましたが、ゾンビとの闘いは初めてではないでしょうか? これまでとは違いましたか?
カン・ドンウォン: ゾンビとのアクションは難しかったですね。ゾンビを演じる方がケガしてしまわないようにとても注意してアクションをしています。ゾンビ役の方はある程度、動きが決められていてガードができないんです。
――前作は、マ・ドンソクさんが素手でゾンビを倒していてびっくりしましたが、今回のカン・ドンウォンさんは役の性格からか、軍人らしいというか、派手ではなく抑制された闘い方に見えました。
カン・ドンウォン: アクションチームと話して、決めてくれた通りに演じているんですよ(笑)。アクションチームは何作も一緒にやってきているので自分のことをわかっていてくれています。もともと銃の訓練はかなり受けていたので、事前の準備としてはとにかくトレーニングして身体をつくってくれ、という話がありました。僕自身はマ・ドンソクさんのようなアクションはできないと思いますし、多分反対にマ・ドンソクさんも僕のようなアクションはしない、そういうものではないでしょうか。ジョンソクは肉体的には強かったけれど、対ゾンビとして特化した戦闘員ではない。ゾンビをうまく扱えていたのは、半島で生き残った人々だったわけです。ジョンソクという人は平凡な人でしたから、そういうアクションになっていったのだと思います。
――実は、カン・ドンウォンさんが演じる役は、強い軍人でゾンビをどんどん倒していくんじゃないかとイメージして見始めたんですが、意外にも女性や子どもに助けられていましたね。
カン・ドンウォン: まさにいま挙げてくださったところは、すごくいいポイントだと考えています。半島に残っていた女性ミンジョン(イ・ジョンヒョン)とその家族だけでは脱出できなかったし、ジョンソクだけでも脱出できなかったと思うんです。助け合いが必要でした。特に社会的に弱い立場にあると言われる人々が、大きな役割を果たすところがとてもよかったです。ミンジョンの子どもたち、ジュニ(イ・レ)とユジン(イ・イェウォン)のカーチェイスも最高でした!
――少女ジュニを演じたイ・レさん(2006年生まれ)は『犬どろぼう完全計画』(2014年)の演技も見事で記憶に残っています。ふたりでシーンの練習など準備はしましたか?
カン・ドンウォン: いえ、すぐに撮影に入りました。イ・レさんは本当に演技が上手で特になにか話をするということはありませんでした。もともと演技がうまいし成熟しているというか、大人びたところがありました。でも、一度ちょっと辛いことがあったようで。僕の方から電話して「ケンチャナ、チャレッソ(大丈夫、よくやったよ)」と言葉をかけたことがありました。
――カン・ドンウォンさんの映画デビュー作『オオカミの誘惑』(2004年)のキム・テギュン監督のインタビューを拝見したことがあります。監督はそこで目の演技の重要性を語っていましたが、確かに『オオカミの誘惑』でのカン・ドンウォンさんの「目」には多くの人が惹きつけられました。『新感染半島』でも「目」で語っているものがとても深い。特に主人公の心が変化する時に、目の演技が効いています。どんな風にやっているのですか?
カン・ドンウォン: まず、目をしっとりうるませて、というのは冗談ですが(笑)。演技をする時に、ひたすらその状況にあった気持ちをつくります。映画というものの特徴でもあるのですが、カメラの角度やレンズのサイズなどを考慮しますね。そういうことも考えながら目の演技をする。特にクローズアップの時は、身体の動きがかなり制限されるので。
――日々のことについて少しお聞かせください。以前、ファッション・デザイナーの松井征心さんにインタビューした際に、カン・ドンウォンさんと親交があると聞きました。映画とは違うジャンルのクリエイターとの交流やお仕事で、どんな刺激を受けますか?
カン・ドンウォン: もちろん、刺激を受けていますね。さまざまな分野で活躍している方々からたくさんのインスピレーションを得ています。俳優は、他の人の人生を表現する仕事ですから、どんな人からもインスピレーションを受けています。征心さんは見ているといつも遊んでいるように見えるんですが、本当に仕事ができるんです。そういうことをお互い話したことがあります。「いつも遊んでいるような気がするけど仕事ができるね」と彼に言ったら「それは君も同じだよ」と言われました(笑)
――ハリウッド映画の主演や是枝監督作品への出演と活躍の場を広げ、演技者として輝きを増しています……、多くの人がそのカッコよさの秘密を知りたいと思うのですが。
カン・ドンウォン: 自分自身がカッコイイかどうかはわかりませんがーー(笑)。僕自身としては果てしなく、限りなく挑戦しながら生きています。
『新感染半島』
監督:ヨン・サンホ
出演:カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、クォン・ヘヒョ、キム・ミンジェ、ク・ギョファン、キム・ドユン、イ・レ、イ・イェウォンほか
2020年 韓国映画 1時間56 分
2021年1月1日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開。
※新型コロナウイルス感染防止のため、公開時期・劇場がしばしば変更されています。足を運ぶ前に確認してください。
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